高い信頼性、孤高の地位を築く録音機材メーカー「Universal Audio」[記事公開日]2021年5月22日
[最終更新日]2022年03月31日

Universal Audio

数多く存在する音楽制作機器メーカーの中でも、孤高の地位を築くUniversal Audio。特に同社の送り出すUADエフェクトプラグインは、専用のインターフェイスやアクセレータを導入して初めて使えるという特殊性や、その尋常ではないクオリティの高さから、音楽クリエイターの中でも特別視されています。今回はUniversal Audioという会社や多岐に渡るラインナップ、そして看板商品であるUADプラグインについて掘り下げてみましょう。

Universal Audioとは?

Universal Audioは1958年、ビル・パットナム・シニアによってシカゴに設立されています。彼は経営者兼レコーディングエンジニアであり、UAを含め同時期にStudio Electronics、Ureiという3社を立ち上げ、610 tube recording Console、LA-2A、1176 Compressorなど、現在にまで銘機として知られる優秀な機材を次々開発。そして片や現場ではシカゴ最高のスタジオと謳われたUniversal Studioの設計を行い、世界初の人工リバーブの録音を成功させるなど、敏腕エンジニアとしてもレコーディングに携わっていました。その後サンフランシスコに移転しさらなる成功も収めていきますが、1989年に彼はこの世を去り、会社は一度幕を閉じました。

1999年、息子であるビル・パットナム・ジュニア、ジェイムス・パットナム氏が会社を再建します。彼らは父の残した設計書などを頼りにLA-2A、1176Aの復元を試み、それを新Universal Audioの初めの仕事としました。さらに、大学でモデリングの技術を学んでいたビル・パットナム・ジュニアは、そのようなアナログの機材をデジタル上で再現することを新たな目標とし、ついにはUADプラグインの開発に成功します。新しいUniversal Audioの第一歩はここに始まったと言って良いでしょう。

現在はオーディオインターフェイスや、1176など銘機のリイシューを始めとするハードウェア、そしてUADプラグインなどソフトウェアを複合的に開発し、高い信頼性をもつハイエンド機器を送り出すメーカーとして、世界中のミュージシャンに愛されています。

専用プラグインを動作させる唯一無二のオーディオインターフェイス

Apollo Twin X Apollo Twin X

Universal Audioのオーディオインターフェイスを使う最大の利点は、内蔵されたDSPプロセッサーを使っての専用プラグインの動作です。これこそ同社の誇る唯一無二の機能であり、その実は世界最高峰のクオリティを備えたUADプラグインを、コンピューター側での負荷を一切掛けずに使用できるというものです。同社のインターフェイスはこのプラグインを使うためのDSPプロセッサーの数によって明確にグレードが分けられています。

また、ユニット一つずつを手作業で組み上げられるインターフェイスは、ハードウェア的なパフォーマンスも非常に優れています。最高峰のA/Dコンバーターを備え、搭載されたUnisonマイクプリアンプは、UADプラグインとしてリリースされている歴史的なコンソールを適用することが可能。個人での導入が難しいNeveやAPIなどの機材でレコーディングするのと、ほぼ同じパフォーマンスを家に居ながらにして得ることができます。

グレード別紹介

上位モデルとして、1UサイズのApollo x6、x8、x8p、x16が存在し、それぞれ5.1(x6)、7.1(x8、x16)チャンネルでのモニタリングが可能。個人用デスクトップモデルとしてはApollo x4、Twin MkII、Soloが代表的。Twin MkIIはプロセッサーのコア数によって3種類がラインナップ。いずれもthunderbolt 3対応ですが、SoloとTwinはUSBモデルがラインナップされています。

Apollo Solo
Apollo Twin MkII
Apollo x4
Apollo x6
Apollo x8p
Apollo x16
DSPプロセッサー数 1 2 4 6 6 6
コア数 Solo Solo, Duo, Quad Quad Hexa Hexa Hexa
Unisonマイクプリ数 2 2 4 2 4(x8)、8(x8p) 16
接続対応 Thunderbolt 3、USB Thunderbolt 3、USB Thunderbolt 3 Thunderbolt 3 Thunderbolt 3 Thunderbolt 3
サイズ デスクトップタイプ デスクトップタイプ デスクトップタイプ 1U 1U 1U

最高のアナログシミュレーションという評価を得る「UADプラグイン」

UADプラグイン

UADプラグインは世界で最高のアナログシミュレーションという評価を得ています。先述の自社製品である1176などはもちろん、他社の製品であっても、協力と提携のもと徹底的な機材の解析が行われており、それをベースに複雑な演算処理を経て出音へと繋げられています。その演算処理が非常に高度かつ複雑なため、PC側の負荷を考えずに使える専用DSPをハードウェア側に搭載するという方法を取っているのです。

UADプラグインのメリット

オーディオインターフェイス側のDSPを利用するため、ホストコンピューターへの負荷を考えずに使えるのは大きなメリットです。導入時のハードルの高さは発生しますが、ハイエンドのプラグインをノートパソコンでも無理なく挿せるのは、この特徴があってこそ。世界中のスタジオで愛用されてきた、膨大なヴィンテージ機材のほとんどを賄えるほど豊富なラインナップを誇り、その製品はコンプレッサーやチャンネルストリップから、ギター、ベースアンプにまで及びます。

使う際の注意点

UADプラグインを使うためにはUniversal AudioのDSPプロセッサー内蔵のオーディオインターフェイス、またはアクセレータを導入する必要があります。いずれも価格は安いとは言えませんが、購入時点でプラグインバンドルが1種類付属されるため、バンドル1種類を込みの値段と見ることもできるでしょう。また、製品のグレードはDSPの数によって分かれており、Apollo Soloなど、DSPが一基のみのものだと足りなくなる恐れもあります。自分の制作スタイルから、どのぐらいのDSPが必要か、考慮して製品を決める必要があります。

おすすめのUADプラグイン

NEVE1073/1084

1970年代、Neveによって作られた伝説的なコンソールを精巧にシミュレートしたプラグイン。実機と同じコントロールとヴィジュアルでまとめられた画面には、フェーダーとEQセクションが並び、どのつまみを動かしても実機の動きと同じように音色変化します。インプットを上げた際の、絶妙な倍音の付加と歪み具合による煌びやかさは、さすがに伝説となる銘機であることを思わせます。チャンネルストリップのプラグインはオーディオインターフェイスで使った際に、Unisonプリアンプとして、レコーディングの際に直に通すことができるのもUADならではの魅力。さながらNeveのコンソールでレコーディングしたかのような質感が得られるでしょう。1084は1073の後発品で、周波数ポイントの変更やHi Qスイッチが採用されたものです。

Shadow Hills Mastering Comp

Shadow Hills社のマスタリング用コンプレッサーを完全に再現したプラグイン。実機と同じく、オプティカルとVCAタイプ、二種のコンプレッサーが一台に収まった格好となっており、それぞれを片方だけ、あるいは両方合わせて掛けることが可能。驚くべきは出力トランスのシミュレーションで、それぞれNickel、Iron、Steelから選ぶことで、アナログ的な歪み感や倍音の出方などをコントロールできます。ヴィンテージコンプによく見られる、90Hz以下をコンプレッションから逃がすサイドチェインスイッチも装備し、マスタリングのみならず、多彩な使い方ができる優秀なコンプレッサーです。

Moog Multimode Filter Collection

アナログシンセの代名詞、Moogに搭載されたフィルター回路のみを取り出しプラグインとして蘇らせたモデル。全ての機能を使えるMultimode Filter XLを筆頭に、機能が制限されるかわりに動作が軽いMultimode Filter、Multimode Filter SEがセットになった製品です。エンベロープとモジュレーションをはじめとする様々なパラメータを操り、得ることができる、多彩かつアナログライクなフィルターは大いに魅力。XLでは看板機能とも言える4レーンのシーケンサーを使うことができ、複雑で有機的な音色変化を作り上げられます。コントロールが多く複雑ではありますが、アーティストプリセットがあらかじめ多く組み込まれているため、手軽に使い始めることができます。

Fender 55 Tweed Deluxe

昨今、ギタリストの使用者が増えているというUniversal Audio製品ですが、それに答えるかのように2016年に登場した、Fenderの55年製ツイードデラックスを再現したプラグイン。数多く存在するギターアンプシミュレーターの中においても、UAが直々に二年掛けて開発したというだけあって、挙動の再現性の高さでは群を抜く完成度で、演奏の強弱などにもしっかりと追従します。当時、実際のアンプでも行われていた、スピーカーの入れ替えもシミュレートしており、Jensen、Celestion、JBLの3台のスピーカー入れ替えをバーチャルで楽しめます。

UA 175B and 176 Tube Compressor Collection

1960年に発売されたUniversal Audioの175B、176コンプレッサーをシミュレートしたプラグイン。さすがに本家本元だけあって、その挙動の精密度はまさに折り紙付き。どちらも伝説的なFETコンプの1176の前身と位置づけられるモデルですが、真空管タイプのこちらは、より中域に味があり、鮮明かつパワフルで、多くのクリエイターが思い描くヴィンテージコンプのイメージが前面に出る印象です。ボーカルにパワフルさを加えたり、ギタートラックを鮮明にしたり、様々な用途に適する汎用性の高い音色で、その質感を得るためにコンプレッションを掛けずに使うなどの使用法まで確立されています。プラグイン版の追加要素として、Mixコントロールを使ってのパラレルコンプが可能になりました。

API 2500 Bus Compressor

1980年代に多様な音楽で使われたVCAバス・コンプレッサーの定番、API 2500をシミュレートしたもの。ハイファイでヌケがよい質感が持ち味で、ドラムバスやマスターバスを筆頭として、様々なソースに使えます。コントロールは典型的なコンプレッサーによく見られるものですが、帯域毎のコンプの掛かり具合を3種類から選べるThrustコントロールや、回路構成を2種類から選べる、トーンのtypeコントロール、音量を常に一定に保つ自動メイクアップゲインなど、実機に存在する特徴的なものも極めて忠実に再現されています。明るい音色でありながらデジタルコンプのような硬さがなく、真空管タイプやFETタイプと違い、色付けが少ないため、純粋な音量管理にも適しています。

UADエフェクトを足下で活用する「UAFXペダルシリーズ」

「UADエフェクトを足下で活用する」というコンセプトの元に生み出された、Universal Audio初となるペダル型エフェクターシリーズ。DSP技術の進化により、スタジオ機器の中でも屈指のクオリティを備える、UADの空間系エフェクトをストンプボックス型に収めることが可能になりました。スタジオ機器からギター用エフェクターに進出した例としては、eventideやTC Electronicなどが有名で、いずれもクオリティの高さで高評価を得ています。今回取り上げる製品も同じ路線ですが、この中でも決定版と言って良い存在になり得ることは間違いありません。2021年春に発売された初号機には、リバーブ、ディレイ、コーラスの3種が名を連ねています。

《スタジオ品質、濃密で重厚なサウンド》Universal Audio UAFX Pedalシリーズ – エレキギター博士

特徴

どの機種にも3種類のヴィンテージエフェクトアルゴリズムが搭載されており、主に70年代ごろまでに開発されたものが主となっています。3種類の内訳は似たもの同士ではなく、透明感あるデジタル系から温かみのあるアナログ系のものまで、様々なシチュエーションで利用できるようになっており、デュアルエンジンを搭載することで、いずれも非常に緻密な真に迫ったサウンドを提供してくれます。機能面ではステレオ入出力を備え、ギター用以外にスタジオ機器として使う事も可能。DCジャックは通常のAC9Vのものが使えるため、エフェクトボードへの追加もスムーズに行えます。

また、ソフトウェアによりトゥルー・バイパス、バッファード・バイパスが選択可能。アルゴリズムについてもダウンロードによる追加が視野に入れられており、2021年5月現在すでに数種類の追加アルゴリズムが製品登録時にダウンロードできます。

Golden Reverberator

60年代のアメリカのヴィンテージギターアンプに搭載されていたスプリングリバーブ、50年代後半に登場したドイツ製プレートリバーブ、70年代後半に登場したデジタルリバーブの3種、そして製品登録時に追加できるチェンバー、プレートの二種を合わせて、5種類を使い分けられるリバーブマシン。ギターエフェクターとしての立ち位置からか、歴史的にもギターに良く使われたものが選別され、サウンドはいずれも当時のものを連想させる真に迫ったものになっています。

Universal Audio Golden Reverberator – Supernice!エフェクター

Starlight Echo Station

完全に再現された70年代初期のテープエコー、70年代~80年代初期のバケツリレー方式アナログディレイ、ハイファイなデジタルディレイの3種が搭載されたディレイマシン。テープエコーについてはテープの摩耗具合までシミュレートでき、アナログ、デジタルディレイについては、それぞれ優れた質感のコーラス、ヴィブラートを搭載。タンプテンポ機能や音符に合わせるディビジョンコントロールももちろん装備しています。製品登録時にCooper Time Cubeディレイを追加可能。

Universal Audio Starlight Echo Station – Supernice!エフェクター

Astra Modulation Machine

70年代、日本で生まれた初のコーラスエフェクターをはじめ、70年代にスタジオに設置されたラック型フランジャー/ダブラー、そして60年代のアメリカ製アンプに搭載されている真空管使用のトレモロをひとつにしたモジュレーション・マシン。ShadeやShapeなど、あまり他では見ないコントロールを備え、モジュレーションを緻密に調整できます。登録時にPhaser X90とDharma Trem 61を追加可能。Phaser X90は定番機のシミュレートだけに、間違いなく重宝するでしょう。

Universal Audio Astra Modulation Machine – Supernice!エフェクター


現在、ソフトウェアとしてのUADプラグインがもっとも有名ですが、かつて作られた銘機に端を発するアウトボード、そしてUADプラグインの受け皿としてのオーディオインターフェイス、ギター用エフェクターに至るまで、ハードウェアについても多彩な展開を見せています。数多くラインナップされるUADプラグインの背景に、これだけのハードウェアに対する技術の蓄積があることがUniversal Audioの強みとなっていることは間違いありません。今後の展開にもまだまだ注目していきたいところです。