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Pro ToolsはアメリカのAvid Technology社によるDAWソフトウェア、及びオーディオインターフェイスやDSPカードなどのシステム全体を表す名称。デジタルレコーディング黎明期に登場し、多数のDAWソフトが乱立する現代まで、DAWソフトのスタンダードであり続けているモンスターソフトウェアであり、多くのレコーディングスタジオで採用されています。
Pro Toolsは1990年代初頭に登場した波形編集ソフトSound Designerと、オーディオインターフェースSound Toolsをその前身としています。当時はPC単体ではレコーデイングや編集に耐えうるほどのスペックがなかったため、外部にDSPカードなどを増設し処理をそちらに任せることで対処されました。トータルシステムとしてのPro Toolsの原型はここに端を発しており、外部の機材を含んだシステムとしてのPro Tools HD(現在はPro Tools Ultimateに統合)はこの発想より生まれてきています。
Pro Toolsは「波形を横に並べて曲全体を視覚的に把握」「波形を直接マウスなどでコントロールして編集」「内蔵プラグインを掛けながら再生する際の遅延補正」といった、現在あらゆるDAWソフトで当たり前のように採用されている機能を次々に搭載し、定番ソフトウェアの地位を確立。外部処理を生かした圧倒的な安定度も相まって、業務用を中心に広く普及し、現在でもその牙城を崩すのが難しいほどのスタンダード製品となっています。
音楽スタジオのみならず映画音響の世界でもPro Toolsはスタンダードとなっており、世界的に音響の業界で広く標準装備といえる状態になっています。レコーディングスタジオにおけるPro Toolsは他のDAWソフトと違い、ハードウェアを含めての構築が前提となるためか、一度設置したものを後から変えるのが難しいという物理的な側面もあるでしょう。また、業務用でスタンダードとなっているがために、個人のミュージシャンもやりとりをシームレスにするために家庭でもPro Toolsを使うのが都合がよく、プライベートでは別のソフトを使いつつ、業務の納品のときにPro Toolsを使用、というケースも見られます。
Pro Toolsのプラグイン形式は、2013年ごろを境に、TDM、RTASという形式からAAX(Avid Audio Extension)に置き換わり、現在では純正はもちろん、サードパーティ製のプラグインも膨大な数がリリースされています。
付属プラグインだけでもトータルにして100近い数があり、特にダイナミクス系、リバーブ、ディレイの充実ぶりは圧巻。ピッチ補正ソフトの定番であるMelodyne Essencialは編集機能に完全に統合され(後述)、さらに有料版以上のグレードになると、サードパーティ製の最高品質プラグインが揃うProTools Inner Circleで使えるバウチャー、Avidのサウンドデザイナーであるマット・ラング氏の手掛けるサンプルやループが使えるSonic Dropの使用権などがまとめて手に入ります。通常に音楽制作を行うために必要なものはほぼ揃っていると言って過言ではありません。
処理を外部DSPに任せることができるのはPro Toolsのみに存在する強みです。この処理方法ではコンピューター内部への負荷が最低限で済むため、非常に高い安定度を誇ります。現在のPro Toolsにおいて外部DSPを使用するのは大規模システムである場合がほとんどであるため、たとえば大人数での一斉録音、映画の音響など、複雑かつ大規模なサウンド構築の場合にこの差が顕著となります。個人の使用者にはあまり関わりのない部分になりますが、業務用として重宝される最大の要因がここにあります。
Pro Toolsは業務用のものを基本として体系的にラインナップを伸ばしてきました。そのためか値段がかなり高いのも特徴となっています。現在のPro Toolsはサブスクリプション制をとっていますが、一番安いArtistでも年間に99ドルの支払いが必要で、上位のStudioになると299ドルとなっています。サブスクリプションがかなり一般的になってきた現在でも、主要DAWソフトは未だ買い切りの形態を取っており、たとえばCubaseの最高グレードのProは買い切りで5万円代程度。これと比較するだけでも相当に高価です。
また、Pro Toolsはあくまでも実際の楽器をレコーディングして、それを並べてマルチトラックを作っていくためのソフトであり、EDMに見られるように、ループやサンプルを並べて制作するのは可能ではあるもののあまり向いていません。このような制作法を取る際には、それを専門的に行えるAbleton LiveやFL Studioなどを検討するほうが良いでしょう。
2023年夏現在では以下の4種に分かれています。
Pro Tools Intro | Pro Tools Artist | Pro Tools Studio | Pro Tools Ultimate | |
付属プラグイン | Introバンドル(36種) | Artistバンドル(100種以上) | Completeバンドル | Completeバンドル |
オーディオトラック | 8 | 32 | 512 | 2048 |
インストゥルメントトラック | 8 | 32 | 512 | 512 |
MIDIトラック | 8 | 64 | 1024 | 1024 |
AUXトラック | 4 | 32 | 128 | 128 |
マスタートラック | – | – | 1 | 64 |
マルチチャンネル | ステレオ | ステレオ | ステレオ、サラウンド | ステレオ、サラウンド |
Melodyne Essential | – | ◯ | ◯ | ◯ |
その他 | Sonic Dropコンテンツへのアクセス Innner Circle特典 |
Sonic Dropコンテンツへのアクセス Innner Circle特典 |
Sonic Dropコンテンツへのアクセス Innner Circle特典 Pro Tools HD対応 |
|
価格 | 無料 | $99 / 年 | $299 / 年 | $599 / 年 |
2023年8月現在
無償版のIntroを除く全てがサブスクリプション制となり、一般コンシューマ向けのArtist、Studio、HDに対応した上級者及び業務用向けのUltimateという立ち位置でカテゴライズされています。下位グレードのArtistはトラック数の制限などがやや厳しいため、メインDAWとして本格的な制作を行いたい場合はStudio以上を選んでおくべきでしょう。
Pro Toolsには100を超える膨大なエフェクトプラグイン、インストゥルメントが付属します。ここではその中のほんの一部を紹介します。
FETリミッターの定番とされる、銘機Urei1176のモデリング。アタックのコントロールが左に回すほど遅くなるなど、オリジナル同様の操作感を持っています。FETコンプレッサーはその動作の速さが特徴で、パワフルな音が作りやすいため、ロックなどに特によく合いますが、当プラグインもその傾向をよく拾っています。動作が軽く、様々なソースに使える万能コンプレッサーとして活躍してくれるでしょう。
Pro Toolsに付属する数多いコンプレッサーの中でも代表的なものの一つ。見た目通りアナログのコンプであり、インプットのレベル調整がスレッショルドを兼ねる使い方もアナログらしい使い心地です。Normal、Warm、Optの3種からモードを選び、様々なサウンドを得ることができる上、ハイパスフィルターやディストーションコントロールがつくなど、一つで様々な役割を任せることができる、多機能で使いやすいコンプレッサーです。
96khzにまで対応する高性能ギターアンプシミュレーター。付属プラグインでありながら、ソフトウェアアンプシミュレーターとして最高峰のクオリティを持ち、特にギターやベース演奏者にとってはありがたい存在でしょう。外部DSPを使用するHD環境ではレイテンシーをゼロに抑えることができ、さながら外部のプリアンプを使用しているかのような感覚で演奏、録音することができます。
ピッチ補正ソフトの代表的製品、Melodyneはすべてのグレードに付属しています。ソフトを別枠で立ち上げるのでなく、Pro Toolsの編集機能と完全に融合しているため、編集ツールの中のいち機能として使えるのは、制作の効率を考えると何より大きなポイント。Essencial版とはいえ、基本機能は完全に網羅しており、通常の使用法であればまず問題になることはないでしょう。
2022年のラインナップ刷新の際に新しく追加された、32ポリフォニックのアナログモデリングシンセ音源。オシレーター、フィルター、アルペジエーターまでが一画面に統一されたわかりやすいインターフェース、基本的な部分を抑えた掛かりの良いエフェクトなど、非常にシンプルで使いやすいシンセとなっています。その簡便なUIもさることながら、プリセットもあらゆるジャンルに使えるものが充実しており、シンセに詳しくないミュージシャンでも無理なく音色を突き詰めることができるでしょう。
2,500種の音色を搭載するマルチティンバー音源。Pro Tools付属の総合音源としてはかなり昔から存在し、非常に多岐に渡る使い方ができるマルチパーパスな音源です。音色はお世辞にも「リアルで高音質」とは言い切れないところがありますが、マニアックな民族楽器までを網羅する豊富な楽器数と圧倒的な動作の軽さで人気が高く、その使い勝手の良さから長くPro Toolsに付属し続けています。Pro Tools使用者以外からも人気が高く、定期的にセール品となってプラグイン系のサイトで販売されています。
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