DAWソフト「FL Studio」はどんな音楽製作ができる?[記事公開日]2023年8月4日
[最終更新日]2023年08月8日

FL StudioはベルギーのImage Line Software社によるDAWソフトウェア。EDMなどクラブ系音楽の制作に高い親和性を持つため、そのような層を中心に高い人気を誇ります。プレイリストにパターンを並べるという使い方はそのままに、バージョンアップを重ねるに連れて付属のプラグインもブラッシュアップ、そして追加が進み、さらに確固たる魅力を放つDAWソフトとして完成度を高めてきました。長らくウインドウズ専用のソフトでしたが、2018年発売のバージョン20から正式にMacに対応し、現在ではAppleシリコンにも完全対応。2023年現在、バージョンはさらに一つ重ねた21.0となり、Fruity、Producer、Signatureの3つのグレードがラインナップされています。

FL STUDIO 21の特徴

FL Studioはループ素材や、ステップ・シーケンサー”Channel Rack”からパターンを作り上げ、それを別ウインドウに配置して全体を作っていくという方法を取ります。この制作法はCubaseなどの正統派DAWソフトと考え方が根本から異なるため、マニアックという評価を受けがちな存在ではありますが、パターンを配置するという方法での制作はループやサンプルを積極的に使う音楽に非常に相性がよく、エレクトロ系の音楽制作にはまさに最適。EDMなどのコンポーザーからは絶大な支持を受けています。

パターンを配置する独自の制作法

ステップシーケンサーで小節単位でのパターンを生成、それを部品としてプレイリストに配置することで音楽を作っていきます。内蔵のシーケンサーは”Channel Rack”と呼ばれ、これがFL Studioの根幹を成す重要なパーツです。Channel Rackはそれ自体がマルチトラックシーケンサと呼べるような構造になっており、ステップシーケンサーを利用したドラムのパターン、ピアノロールを利用したベースラインからキーボードの織りなすコード伴奏まで、複数の楽器が織りなすパターンをこの中ですべて作ることができます。

Channel Rackで作り出したパターンは、プレイリストに並べていくことで曲を俯瞰的に組み立てていきます。プレイリストにはパターン以外にもオーディオサンプルやオートメーションなどを部品として並べることができますが、特にオートメーションを部品として扱えることでその柔軟な運用が可能になるため、ここはオートメーションを多用するEDMにとって大きな利点になり得ます。

またミキサーが完全に独立しているのもFL Studioの特徴の一つです。ミキサーとプレイリストウインドウのトラックは連携しているわけではなく、ミキサーを使った音量調整のためにはどのトラックをどのチャンネルに送るのかを事前に設定する必要があります。これによってプレイリストウインドウとミキサーが合致しなくなるため、制作途上では煩雑に感じることがありますが、反面自由度が非常に高いため、うまくカテゴライズしてルーティングすることで非常に簡便にミキシングすることが可能になります。

使いやすいオーディオ編集、ピアノロール

FL Studioはその制作法から、オーディオ波形の加工が必須といってよい存在です。そのため、波形の編集には非常に強く、タイムストレッチやピッチシフト、リバースなど多彩な編集が直感的に行えるサンプラー、外部の録音と複雑な編集を兼ねる強力なサンプラープラグイン”Edison”など(後述)、多くの機能を備えています。

また、打ち込みも容易に行えるように工夫されており、Channel Rack内で打ち込みの際に使われるドラムシーケンサー、ピアノロールともに、わかりやすいUIと直感的な操作を実現しています。ドラムシーケンサーでは等間隔に音を一括に打ち込む、小節数を自由に伸び縮みさせるなど一瞬で行うことができ、ピアノロールについても特にステップ入力の際にはその簡便かつ直感的な操作の恩恵を感じることができます。

高品質なプラグイン

EQやコンプレッサー、フィルターなど、音楽制作に必須と言えるプラグインはほぼ網羅しています。特に最高グレードであるSignatureでは非常に高機能なものまでをデフォルトで搭載しており、外部プラグインに頼る必要なく、複雑なトラック制作が自在に行なえます。インストゥルメント系も多く付属しますが、中でもバージョン20.5よりあらたに追加された”FLEX”は強力で、これ一つでエレクトロ系サウンドのメインを張れる高いポテンシャルを秘めています(後述)。

特にエフェクトは全体的にパワフルかつハイファイ、良くも悪しくも派手なサウンドを得意としています。コンプレッサーが強くかかった低音や、強烈に抜けるハイファイな金物の音など、EDMを印象づけるサウンドを構築する際、このプラグインの恩恵に預かるところは非常に大きいため、その制作方法とともにFL Studioを構成する大きな要素となっています。

高いコストパフォーマンス

3つあるグレードの中でも最安値のFruityでは1万円台前半、もっとも人気なProducerでも2万円台で提供されており、さらに最高グレードのSignatureは解説本とのお得なバンドルパックが用意され、また他社DAWからの乗り換えでさらに安価となるクロスグレード版も存在します。他社のDAWと比べてもそのコストパフォーマンスは歴然としているうえ、Image Line Software社は公式に「ライフタイムフリーアップデート」を謳っており、永年無償アップデートが約束されています。OSのアップデートとともにソフトウェアがアップデートされ、それに伴い余分な実費が請求される、といったようなことが起こらないことは、今後同じソフトを使っていく際に大きな安心材料となるでしょう。

エフェクト、インストルゥメント

FL Studioには膨大なエフェクトや数々のインストゥルメントが付属しています。その中でもVer20~21で新たに収録されたものや、代表的なものをいくつか紹介します。

Edison

内部のトラックや外部入力からのギターやピアノなど、あらゆるソースを録音できるサンプラー。FL Studioでは録音されたサウンドもサンプルとして利用することになるため、単に録音するためだけのものではなく、スライス、オートメーションカーブなど、編集を駆使して素材を作り上げるサンプラーとしての側面が強く見られます。とはいえ、シングルトラックのレコーダーとしても優秀で、通常のDAWと同じく、プレイリスト上のトラックをバックとしてレコーディングを行う際にも大変使いやすく作られています。さらに録音、編集のみならず、リバーブやEQやノイズ低減、またローファイやブラー(ぼかし)などのエフェクトまで掛けられるため、まさになんでもできるサンプラーといったところです。最終的に仕上がったものはFL Studioのプレイリストに配置するのが基本ですが、単体でwav、mp3などへの書き出しも行えるため、レコーディング作業の他にも、素材やアイデアのスケッチとして利用することもできます。

Gross Beat

FL Studio初期のバージョンから付属している、当ソフトを代表するプラグイン。時間とピッチを有機的に変化させることでゲート、スクラッチ、スタッターなどエレクトロ系音楽に必須の効果を自由自在に得ることができます。何の変哲もないシンプルなドラムビートが、クールで緊張感あふれる複雑なパターンに変化していくさまはまさに魔法のよう。自在に扱えると変化の度合いやパターンも全て自分で組むことができますが、操作が複雑ということもあってかプリセットが充実しており、プリセットを選んでなんとなくカーブを動かすだけでも、面白い効果をすぐに得ることができます。非常に良くできている上、同種の機能を持った製品が少ないからか、FL Studio使用者以外からもいちエフェクトプラグインとして大変人気がある製品です。

Vintage Chorus、Vintage Phaser

それぞれver20.9、21より追加された、FL Studioにおいては新参となるエフェクトプラグイン。Vintage ChorusはRoland Juno-6に内蔵されていたコーラスを再現。3種類のモードを持ち、短いディレイとモジュレーションとの組み合わせでサウンドを作り上げます。昔のアナログコーラスに共通して見られる、温かみがあって太いサウンドが特徴です。Vintage Phaserは70年代にシンセサイザー奏者Jean Michel Jarreによって使用された、Electro-Harmonix Small Stoneのサウンドを再現したプラグイン。PhaserパネルとModulation、Delayパネルから成り、複層的なエフェクトを構築可能。ギターエフェクターとして発売されていたオリジナル製品同様、前へ突き抜けてくるようなサウンドが特徴です。近年過去の銘機を再現するプラグインは至るところで見ることができますが、高価なことがほとんど。このクオリティのものがDAWに付属されているというのは珍しいと言って良いでしょう。

FLEX

Ver20.5より新規で追加されたシンセサイザー音源。減算、ウェーブテーブル、マルチサンプル、AM、FM方式などが複合的に組み合わさった構造を持っており、現代の音楽で必要となるあらゆるサウンドを網羅したハイクオリティな音源です。ゼロからサウンドを作り上げることはできず、プリセットからサウンドを選んでいく方式ですが、プリセットも様々な種類のものが膨大に揃っている上、機能を絞ったことが功を奏し、使いやすいシンセ音源になっているところも高い評価につながっています。ゼロから構築することさえできないもののサウンドを加工する能力はかなり高く、右側ウインドウに多く配されたパラメータはどれをとっても変化がわかりやすい上、元のサウンドを大胆に変質させることも可能なので、思い描いた音色にも直感的にたどり着きやすくなっています。プリセットはOnline Packsからプリセットを購入して、付け足すこともできます。