レコーディング時にかかせないエフェクター。小さい音はそのままに大きい音を圧縮する効果を持ち、楽曲の音量を安定させるために使用します。
ボーカルやギター・ベースの音圧を安定させ、バスドラムやスネアなどパワー感が欲しい時にも使用されます。
録音時・ミックスダウン・マスタリングと、どの工程でもお世話になるエフェクター。
WAVES Renaissance Compressor
コンプレッサーには以下のパラメータが用意されています。
1.ゲイン(Gain):全体の音量レベルを調整する値
2.スレッショルド(threshold):コンプの効き具合の調整をおこなう値
3.レシオ(ratio):圧縮比率の値
4.アタック(Attack):スレッショルド値を超えてから圧縮するまでの時間
5.リリース(release):スレッショルドを下回ってから、コンプを解除するまでの時間
6.ゲインリダクション(Gain Reduction):圧縮した(減音した)音の大きさ
ゲインは文字通りオーディオファイルの出力レベルを調整する値です。コンプレッサーによって圧縮されると音量レベルが下がるため、それを取り戻すために使います。
例えば、スレッショルドを下げてゲインリダクションが-4dBと表示された場合、その時点で-4dB分の音量レベルが失われていることになります。そのため、ゲインを-4dB分上げて±0の状態に持っていく訳です。
もちろんやり方は様々ですが、「ゲインリダクションと同じ分だけゲインを上げる」と覚えておくと良いでしょう。ダイナミクス重視のミックスにしたい場合、ゲインリダクションの数値から-0.5dBあるいは-1dB引いた値に設定するのがオススメです。あえてピークまで余裕を持たせることで、ナチュラルな仕上がりになります。
コンプレッサーの効き具合を調整する値です。この値を下げることでオーディオファイルを圧縮し、ゲインリダクションの数値が上がっていきます。仮にあるパートを-8dBまで圧縮したい場合、ゲインリダクションが-8dBに達するまでスレッショルドを下げれば良いということになります。ゲインリダクションの値見ながら少しづつ下げていくのがコツです。
圧縮比率を表す値であり、割合が大きければ大きいほど「使用するコンプレッサーの特性が乗った圧縮感のある」になります。ボーカルやストリングス、ピアノなどのダイナミクスを活かしたいパートは1:2~1:4、キックやベースなどの太さが求められるパートは1:4~1:8あたりがオススメです。エレクトロ系の楽曲の場合はより大きな値に設定しても良いでしょう。
音の奥行きを左右する値です。アタックを早くすると奥まった音に聴こえ、遅くすると音が前に出てきます。キックやボーカルなど存在感を出したいパートはアタックを遅め、バッキングやストリングスなど存在感はあるものの、奥で鳴って主役(ボーカルなど)を邪魔しないパートは速めると良いでしょう。アタックとリリース(後述)はコンプレッサーを用いた音作りのキモと言えるので、色々なパートにインサートして値による出音の違いを聴く比べることをオススメします。
コンプが効いている時間を設定する値であり、適切な数値を設定するのが比較的難しい値でもあります。そのため、機種によっては「オートリリース機能」というリリースタイムを自動設定する機能を搭載しています。速くすると短時間でコンプの効果が切れ、遅くすると長くなるというイメージで良いでしょう。オートリリース機能を搭載したコンプレッサーを使っている場合、慣れるまではオートにするのがオススメです。
コンプレッサーが圧縮した量(dB)を表す値です。この値が大きければ大きいほど音が圧縮されていることになります。
通常コンプ・プラグインを立ち上げるだけの状態では全く圧縮されておらず何の意味もありません。スレッショルド値を越えて初めて圧縮されます。トラックを再生させてGain Reductionメーターを確認しながら設定しましょう。
圧縮しすぎると音量が一定になりすぎてしまい、ボーカルの場合は情感がなくなってしまいます。まずは圧縮値が-5dBくらいになるように設定、そこから注意深くオケを聞きながら調整しましょう。
レシオの比率を上げていくことで音が前に浮き出るような効果を狙うことができます。「全体的に歌がオケに埋もれる」という人は【ratio】(圧縮比率)を 4:1 程度にしてみて下さい(必要があればGainも上げる)。
Logicの場合はコンプレッサー・プラグイン画面左上の【Circuit Type】によって、回路の種類を選ぶことが出来ます。ロック・ボーカルなどに暖かみを加えたい場合は「CLASS-A」タイプがオススメです。
マスタリングで使用されるのが楽曲全体に適用するコンプレッサー、マルチバンドコンプレッサー(通称:マルチプレッサー)。周波帯域を区切って、各帯域毎にコンプをかけることができるプラグイン。
楽曲の最終調整時に使用されます。
他の曲に比べてLo-Fiになっている場合、高音域にゲインをかけることで馴染ませることができます。
重低音が足りないと感じたら低音域にゲインをかけましょう。
ハードウェアのコンプレッサーには様々な動作タイプがあり、ソフトウェア・プラグインもこれらをモデリングしたものです。動作タイプ毎にどのような特徴があり、どうやって使い分けるかを紹介します。
MANLEY Stereo Variable-MU
1950年代から使われている真空管回路を用いたコンプレッサーのことです。掛けるだけで楽曲に自然な暖かみを加え、ナチュラルに音圧を増幅させることができます。ハードウェアでは業界標準のマスタリング・コンプレッサー MANLEY Stereo Variable-MU などが有名。
真空管コンプレッサーは他の動作原理とは異なる独特の倍音付加効果があり、ボーカルトラックにインサートするとクリーミーなサウンドに仕上がります。70年代の洋楽で耳にする暖かみのあるサウンドはヴィンテージライクな楽曲と相性抜群です。音がグッと前に出てくる印象もあるので、ボーカルには光学式のコンプレッサーを使用するのが定石ですが、あえて真空管コンプをインサートするのも面白いでしょう。
真空管コンプレッサーを強めに掛けることで荒々しいサウンドに仕上げることができます。往年の名曲で耳にするドライブ感とパンチ感を持ち合わせたあのサウンドは真空管コンプによって作られていると言っても過言ではありません。
・Waves PuigChild Compressor
・Ik Multimedia T-Racks Vintage Compressor
TUBE-TECH CL 1B
Opto(=光学式)はLEDとフォトセルを組み合わせて動作するタイプのコンプレッサー。入力された信号(電流)がLEDを光らせ、フォトセルが光りの大きさによって新たに信号を送ることでコンプレッションされます。
反応速度が遅くぬるっとした掛かり方が特徴で、主にボーカルにトラックで使用されるコンプレッサーです。いわゆるコンプ臭さと呼ばれるものが限りなく少なく、それでいて波形はしっかり揃っているのが魅力と言えるでしょう。バラードやジャズなど、ダイナミクスを活かすボーカルトラックで使用することをオススメします。
光学式コンプレッサーはベースとの相性も抜群です。波形をパンパンに詰めたロックベースのようなサウンドには向いていませんが、低音感をキープしつつダイナミクスも感じさせるウッドベースなどに使用すると良い結果になることが多いです。強くリダクションさせて軽く歪ませるのも良いでしょう。
アコースティックギターのアルペジオはダイナミクスを重視するパートです。ダイナミクスを残したまま音の粒を揃えることが出来る光学式コンプレッサーはとても相性が良く、通すことで生々しく艶のあるサウンドに仕上げることができます。
・Waves CLA-2A
・Ik Multimedia White 2A
・UAD2 Teletronix LA-2A
UREI 1176
ハードウェア・コンプの名機 UREI 1176 に代表される FET は、1960年代後半のロックサウンドを作り出してきたといっても過言ではないコンプレッサーです。他の動作原理に比べアタック/リリースを速く設定できることからエッジの効いたソリッドな質感を出すことができます。
ロックサウンドなどダイナミクスよりも存在感を重視したいボーカルに掛けると良いでしょう。パワフルなドラムやディストーションギターに負けず、存在感をキープしたまま抜けの良いボーカルにすることが可能です。
音抜けの良いスナッピーなスネアドラムを目指す場合、FETのコンプレッサーがオススメです。設定次第でパツンとしてコンプ感満載のサウンドに仕上げることもできます。昨今のロックサウンドのスネアドラムにFETのコンプレッサーは欠かせません。
アタック/リリースをそれぞれ最速に設定することで独特の歪みを生み出すことができます。サチュレーターで作り出す歪みとは一味違い、パワフルでアナログ感のあるサウンドに仕上げることが可能です。
・Waves CLA76
・SOFTUBE FET Compressor
Vertigo VSC-2
1970年代に登場した、クリーンで味付けの少ない音色が特徴のコンプレッサーです。キビキビとした動作が特徴でレスポンスが速く素直な出音なので、あらゆるトラックに使用することができます。ただし、他の動作原理に比べ硬質なサウンドになりがちなので、ヴィンテージライクな楽曲で使用するには向いていないかもしれません。
光学式コンプレッサーほどぬるっとした掛かり方はしませんが、出音が素直な点、キビキビと動作する点を考慮するとボーカルトラックとの相性に優れていると言えます。そのため、光学式のコンプレッサーの代用にVCAを使うことができます。1つのトラックに2つのコンプレッサーをインサートするいわゆる二段がけを行うことで、よりナチュラルなサウンドに仕上がります。
VCAのコンプレッサ-はアコースティックギターやストリングスなど弦楽器との相性が抜群です。素直な出音なのはもちろんですが、設定次第で倍音豊かな煌びやかなサウンドに仕上げることが可能です。イコライジングしなくても抜けの良いサウンドになるため、音抜けが悪い時はあえてハイをブーストせずVCAのコンプレッサーを通して解決するのも良いでしょう。
・WAVES SSL G-Master Buss Comp
・WAVES DBX 160 Comp
・Vertigo VSC-2