コンプレッサーの使い方・設定のコツを解説

[記事公開日]2024/3/4 [最終更新日]2026/5/15
[編集者]神崎聡

WAVES H-Comp Hybrid Compressorプラグイン画面 WAVES H-Comp

コンプレッサーはDAWでのレコーディング/ミックスダウン作業に欠かせないエフェクトです。小さい音はそのままに大きい音を圧縮する効果を持ち、楽曲の音量を安定させるために使用します。
ボーカルやギター・ベースの音圧を整え、バスドラムやスネアなどパワー感が欲しい場面でも活躍します。録音・ミックスダウン・マスタリングと、どの工程でもお世話になるエフェクトのため、使い方をしっかりと押さえておきましょう。それではコンプレッサーの使い方を順番に見ていきます。

コンプレッサーの役割は?

まずはコンプレッサーが担う代表的な役割から確認していきます。

音量を均一に保つ

コンプレッサーの利用法として真っ先に思いつく役割がこれです。
音量のばらつきが大きいトラックのピーク部分のみを抑え込み、全体の音量を均します。ピークを抑える必要があるため、アタックは速め、リリースは余韻に応じて適宜設定します。
ベース・アコースティックギター・ボーカルなど、音量差が大きく、かつ一定の音量で安定させて聴かせたい楽器には特に重要な使い方です。
ただし、ボーカルやヴァイオリン、管楽器のメロディなどは、あまり音量差を無くしてしまうとダイナミクスが感じられなくなり、情感に欠けたメロディラインになってしまいます。特にかけ過ぎに注意しましょう。

アタック音を鋭くする

アタック音を強調し、鋭い音を作り出します。
前述のとおりアタック遅めの設定を使い、ピークを過ぎてから一気に圧縮を掛けることでアタックのみを目立たせます。
リリースを長くし過ぎると次の音の発音タイミングに掛かってしまうため、全体をよく聴きながら調整しましょう。
打楽器に特に有効で、スネアなどはこの設定次第で非常に強い存在感を演出できます。

サステインを伸ばす

アタックをつぶした上で全体の音量を上げると、減衰音も一緒に大きくなり、相対的に音が伸びているように聞こえます。
アタック速め・リリース速めの設定が基本です。
他の使い方に比べて登場頻度は高くありませんが、ピアノや歪んでいないギターなど、音がすぐ減衰する楽器では効果的に使えるシーンが見つかるでしょう。
ちなみに、ギター用コンプレッションサスティナーのエフェクターはこれを応用したものです。

全体の音量を底上げする、音圧を上げる

ピークを含んだ全体を抑え込んで上部に余白を作り、その分の音量を上げることで、トラック全体を一段階上に持ち上げます。
個々の楽器でもドラムバスやボーカルなどによく使われる手法ですが、特に最終ミックス段階ではほぼ必須と言ってよい作業です。
あくまで元の音色を壊さずに行うのが基本のため、レシオは2:1以下の小さな値にしておくのが普通です。
ヴィンテージ系のコンプレッサーは、程よいアナログ感や若干の歪みをもたらして楽曲をドライブさせられるため、この用途には好んで使われます。

倍音成分を付加する

ヴィンテージ系のコンプレッサーに多い特徴として「通すだけで音が良くなる」と言われるものがあります。
これはその機材の持つ特有の回路を通すことで、若干の歪み成分が付加されるために起こる現象です。
歪み成分が付加されると倍音が豊かになり、中域がリッチになったり音ヌケが良くなったりと、さまざまな恩恵が受けられます。
圧縮そのものに加えて、このような効果を狙ってヴィンテージ系コンプレッサーが選ばれることは少なくなく、特に目立たせたいトラックに使うと効果的です。

コンプレッサーのパラメータ

Logic Pro標準コンプレッサー・プラグインの操作画面
Logic Proに標準搭載されているコンプレッサー・プラグイン。中央のメーターが反応することでコンプレッションのかかり具合が確認できる

コンプレッサーには以下のパラメータが用意されています。

  • ゲイン(Gain):全体の音量レベルを調整する値
  • スレッショルド(threshold):コンプの効き具合の調整をおこなう値
  • レシオ(ratio):圧縮比率の値
  • アタック(Attack):スレッショルド値を超えてから圧縮するまでの時間
  • リリース(release):スレッショルドを下回ってから、コンプを解除するまでの時間
  • ゲインリダクション(Gain Reduction):圧縮した(減音した)音の大きさ

コンプレッサーのパラメータ配置を示す図

1.ゲイン(Gain)

ゲインは文字どおりオーディオファイルの出力レベルを調整する値です。コンプレッサーで圧縮されると音量レベルが下がるため、それを取り戻すために使います。

例えば、スレッショルドを下げてゲインリダクションが-4dBと表示された場合、その時点で-4dB分の音量レベルが失われていることになります。そのため、ゲインを+4dB上げて±0の状態に持っていく訳です。

もちろんやり方はさまざまですが、「ゲインリダクションと同じ分だけゲインを上げる」と覚えておくと良いでしょう。

ダイナミクス重視のミックスにしたい場合、ゲインリダクションの数値から-0.5dBあるいは-1dB引いた値に設定するのがオススメです。あえてピークまで余裕を持たせることで、ナチュラルな仕上がりになります。

2.スレッショルド(threshold)

コンプレッサーの効き具合を調整する値です。この値を下げることでオーディオファイルを圧縮し、ゲインリダクションの数値が上がっていきます。

仮にあるパートを-8dBまで圧縮したい場合、ゲインリダクションが-8dBに達するまでスレッショルドを下げれば良いことになります。ゲインリダクションの値を見ながら少しづつ下げていくのがコツです。

3.レシオ(ratio)

圧縮比率を表す値であり、割合が大きければ大きいほど「使用するコンプレッサーの特性が乗った圧縮感のある」サウンドになります。

ボーカルやストリングス、ピアノなどダイナミクスを活かしたいパートは1:2〜1:4、キックやベースなど太さが求められるパートは1:4〜1:8あたりがオススメです。エレクトロ系の楽曲ではより大きな値に設定してもよいでしょう。

4.アタック(Attack)

スレッショルドで設定した値を超えた後、音の圧縮が開始されるまでの猶予時間です。
遅くすると圧縮の開始が遅れ、結果的にアタック音が鋭角的になります。
速くすると、ピークを超えてすぐに圧縮が始まり、アタック感がなくなって、なめらかな印象が強くなります。

5.リリース(release)

圧縮された音が減衰し、やがてスレッショルドを下回った際に、どのぐらいの猶予時間をもって圧縮を解除するかの値です。
長いとスレッショルドを下回ってもなお圧縮が続き、短いと下回ってすぐに解除されます。
長い方がコンプレッサーの効果が持続するという感覚で概ね間違いありません。
アタックとリリースは繊細な調整によって音のダイナミクスを大きく変化させられます。
リリースにはオート機能が付いている場合もあり、わかりにくい場合はそれに頼ってもよいでしょう。

6.ゲインリダクション(Gain Reduction)

コンプレッサーが圧縮した量(dB)を表す値です。この値が大きければ大きいほど音が圧縮されていることになります。

特定のコントロールが無いものも

ヴィンテージ系のコンプレッサーなどでは上で挙げたパラメータが付いていないものも多くあります。特にスレッショルドが無いものは多く、そのようなモデルでは代わりにインプットやゲインが存在します。
入力量を大きくすると、その分コンプレッションも大きく掛かっていくという仕組みです。アタックやリリースもデジタル機ほど細かく設定はできず、レシオは1:2、1:4、1:8などあらかじめ決まった値から選ぶというものが一般的です。

コンプレッサーの動作原理

スレッショルドを超えた音量をどれぐらいの比率(レシオ)で圧縮するかが、コンプレッサーの動作の基本です。
レシオは高いほど音量が揃いますが、あまり強く掛けるとダイナミクスの幅が希薄になってしまいます。また、圧縮し過ぎると最悪音が歪み出しますので、かけ過ぎには注意しましょう。
アタックとリリースの値は、コンプレッサーの使い方における最大のポイントです。以下の設定はよく使われる上、コンプレッサーの動作を理解するのに適しています。コンプがいまいちわからないという方は、この辺りからイメージしておくと良いでしょう。

アタック遅め、リリース遅め

アタック遅め・リリース遅め設定時のコンプレッション波形

圧縮開始が遅くなり、アタック成分がそのまま残ります。音量のピーク辺りで急に圧縮が開始され、そのまま音の減衰終わり近くまで圧縮が続きます。
急峻なアタック音が得られるため鋭角的なサウンドになり、音の輪郭がくっきりします。
打楽器によく使われる設定です。音が前へ出てくるため、場合によってはボーカルなどメインのトラックに使用しても良いでしょう。

アタック速め、リリース速め

アタック速め・リリース速め設定時のコンプレッション波形

スレッショルドを超えてすぐに圧縮が開始され、下回ると程なくして解除されます。
音の輪郭がつぶれ、なだらかなカーブを描くことで、音全体がふわりとしたイメージになります。
ストリングスなどアタックの乏しいソースや、極端な音量差を避けたいアコースティックギターなどにもよく使用される設定です。
音が奥まって聞こえるため、ボーカルを邪魔するソースのアタックをこれでつぶしておくのもよく取られる手法です。

また、このままゲインを上げると全体の音量アップに繋がるため、単純に音圧を稼ぎたい時にもよく使われます。
この場合、特にレシオを高めにすると効果が強く、ボーカルなど音量がふらついて前へと出てこない場合に、4:1以上などの高めのレシオで掛けてやると、ぐっと前へ出てくる効果を実感できます。

コンプレッサーの仲間たち

リミッター

WAVES L1 Ultramaximizerプラグイン画面 WAVES L1 Ultramaximizer

基本的にコンプレッサーと同じ動作原理ですが、アタックがほぼゼロで、レシオが∞:1になっているものを特別にリミッターと呼んで区別します。
リミッターはスレッショルドを超えたものを一切通さない、門のような働きをするため、レベルオーバーでのクリップを防ぎつつ、音量をしっかりと確保したい場合に使用されます。
コンプレッサーでもアタックを最短、レシオを最大まで上げて使うと、似た効果を得ることができます。

マルチバンドコンプレッサー(マルチプレッサー)

Logic Pro Multipressorのマルチバンドコンプレッサー画面
Logic Proのマルチバンドコンプレッサー「Multipressor」

マスタリングなど楽曲全体に適用するコンプレッサーが、マルチバンドコンプレッサー(通称:マルチプレッサー)です。
周波数帯域を区切って、各帯域ごとにコンプを掛けることができるプラグインで、単一の楽器で使われることは少なく、ドラム全体をまとめたドラムバストラックや、楽曲の最終調整で使用されることがほとんどです。
マスタリングでは主に低域を強めに、高域をわずかに圧縮してゲインを上げることで、安定した重低音と煌びやかさを得るような設定がよく使われます。

トランジェント・シェイパー

トランジェント・シェイパーは、コンプレッサーを使ってのサウンドデザインをワンタッチで行える便利なエフェクトです。
アタックとリリース、そしてレシオの値を複雑にイメージしつつ作り上げる「鋭角的な音」や「なだらかなサウンド」を、分かりやすいコントロール一つで瞬時に作り出すことができます。
特にドラムなどの打楽器では効果絶大で、コンプレッサーと悪戦苦闘するよりも簡単により良い効果を得られることもあります。
コンプレッサーやリミッターに比べても後発のエフェクトですが、昨今急速にメジャーな存在となりつつあり、市販のプラグインも増えてきています。

コンプレッサーの動作タイプ

ハードウェアのコンプレッサーにはさまざまな動作タイプがあり、ソフトウェア・プラグインの多くはこれらをモデリングしたものです。動作タイプごとにどのような特徴があり、どう使い分けるかを紹介していきます。

Full Tube(真空管)

MANLEY Variable Mu リミッター・コンプレッサー本体 MANLEY Variable Mu

1950年代後半から60年代にかけて確立された真空管回路を用いたコンプレッサーのことです。掛けるだけで楽曲に自然な暖かみを加え、ナチュラルに音圧を増幅させられます。
ハードウェアでは業界標準のステレオバスコンプレッサー MANLEY Variable Mu(カリフォルニアでハンドメイドされる現行機)などが有名です。

ボーカルにかけてクリーミーなサウンドに

真空管コンプレッサーには他の動作原理とは異なる独特の倍音付加効果があり、ボーカルトラックにインサートするとクリーミーなサウンドに仕上がります。
70年代の洋楽で耳にする暖かみのあるサウンドは、ヴィンテージライクな楽曲と相性抜群です。
音がグッと前に出てくる印象もあるため、ボーカルには光学式のコンプレッサーを使用するのが定石ですが、あえて真空管コンプをインサートするのも面白いでしょう。

ビンテージライクな激しいコンプサウンド

真空管コンプレッサーを強めに掛けることで、荒々しいサウンドに仕上げることができます。
往年の名曲で耳にするドライブ感とパンチ感を持ち合わせたあのサウンドは、真空管コンプによって作られていると言っても過言ではありません。

Opto(光学式)

TUBE-TECH CL 1B 全真空管オプティカルコンプレッサー TUBE-TECH CL 1B

Opto(光学式)はLEDとフォトセルを組み合わせて動作するタイプのコンプレッサーです。
入力された信号(電流)がLEDを光らせ、フォトセルがその光の大きさに応じて新たに信号を送ることでコンプレッションされます。
代表機の TUBE-TECH CL 1B は全真空管オプティカル設計のまま現行販売が続いています。

ヴォーカルレベルを自然に整える

反応速度が遅くぬるっとした掛かり方が特徴で、主にボーカルトラックで使用されるコンプレッサーです。
いわゆるコンプ臭さと呼ばれるものが限りなく少なく、それでいて波形はしっかり揃っているのが魅力と言えるでしょう。バラードやジャズなど、ダイナミクスを活かすボーカルトラックでの使用がオススメです。

ベースの音量をならして軽く歪ませる

光学式コンプレッサーはベースとの相性も抜群です。
波形をパンパンに詰めたロックベースのようなサウンドには向いていませんが、低音感をキープしつつダイナミクスも感じさせるウッドベースなどに使用すると良い結果になることが多いです。強くリダクションさせて軽く歪ませるのもよいでしょう。

アコースティックギターのアルペジオに掛ける

アコースティックギターのアルペジオはダイナミクスを重視するパートです。
ダイナミクスを残したまま音の粒を揃えることができる光学式コンプレッサーはとても相性が良く、通すことで生々しく艶のあるサウンドに仕上がります。

FET

UREI 1176 ピークリミッター本体
UREI 1176

ハードウェアコンプの名機 UREI 1176 に代表される FET は、1960年代後半のロックサウンドを作り出してきたと言っても過言ではないコンプレッサーです。
他の動作原理に比べてアタック/リリースを速く設定できることから、エッジの効いたソリッドな質感を出すことができます。
UREIブランドの実機は1980年代に生産を終了していますが、設計者ビル・パットナム・シニアによるオリジナル回路は、現在 Universal Audio が 1176LN として復刻し現行のハードウェアとして販売を続けています。

ボーカルをソリッドなサウンドに

ロックサウンドなど、ダイナミクスよりも存在感を重視したいボーカルに掛けると良いでしょう。
パワフルなドラムやディストーションギターに負けず、存在感をキープしたまま抜けの良いボーカルにできます。

エッジの立ったスネアを作る

音抜けの良いスナッピーなスネアドラムを目指す場合、FETのコンプレッサーがオススメです。
設定次第でパツンとしたコンプ感満載のサウンドに仕上げることもできます。昨今のロックサウンドのスネアドラムに、FETのコンプレッサーは欠かせません。

アタック/リリースを最速にして歪ませる

アタック/リリースをそれぞれ最速に設定することで独特の歪みを生み出すことができます。
サチュレーターで作り出す歪みとは一味違い、パワフルでアナログ感のあるサウンドに仕上げることが可能です。

VCA

Vertigo VSC-2 VCAコンプレッサー本体
Vertigo VSC-2

1970年代に David Blackmer の Gain Cell 特許(1973年)や dbx 160(1976年)を皮切りに登場した動作タイプで、クリーンで味付けの少ない音色が特徴のコンプレッサーです。
キビキビとした動作が特徴でレスポンスが速く素直な出音なので、あらゆるトラックに使用することができます。

ただし、他の動作原理に比べて硬質なサウンドになりがちなため、ヴィンテージライクな楽曲には向いていないかもしれません。

光学式コンプレッサーを補うような使い方

光学式コンプレッサーほどぬるっとした掛かり方はしませんが、出音が素直な点、キビキビと動作する点を考慮すると、ボーカルトラックとの相性に優れています。
そのため、光学式コンプレッサーの代用としてVCAを使うこともできます。
1つのトラックに2つのコンプレッサーをインサートするいわゆる二段がけを行うことで、よりナチュラルなサウンドに仕上がります。

弦楽器に掛けて煌びやかなサウンドに

VCAのコンプレッサーはアコースティックギターやストリングスなど弦楽器との相性が抜群です。素直な出音はもちろん、設定次第で倍音豊かな煌びやかなサウンドに仕上げることが可能です。
イコライジングしなくても抜けの良いサウンドになるため、音抜けが悪い時はあえてハイをブーストせずVCAのコンプレッサーを通して解決するのも良いでしょう。

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