DTM博士流、ミックスダウンのコツ[記事公開日]2020年5月1日
[最終更新日]2022年03月31日

DTM博士流ミキシングテクニック

DTMでの「ミックスダウン」は楽曲のクオリティを左右するとても大切な作業です。バンドでのスタジオレコーディングとは異なり、曲を活かすも殺すも、全てはミックス次第と言っても過言ではありません。

各パートの音量レベルや左右の定位(PAN)を調整したり、様々なエフェクトを掛けて音を加工・処理するのが基本となりますが、どのような方法で作業を進めれば良いかわからないという方も多いことでしょう。「本やサイトは読んだけどイマイチわかってない…」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は「DTM博士流ミキシングテクニック」と題しまして、オリジナル曲のクオリティアップを目的とした様々な手法を紹介していきます。テクニックだけでなくミックスダウンに関する基本的な考え方にも触れていきますので、じっくりと読み進めて頂ければ幸いです。一緒に「最高の2MIX」を追求していきましょう。

当サイトに登場するDTM君がミックスダウンした楽曲がこちら


オーバードライブとディストーションを比べてみた【ギター博士】 4:42〜
作曲はギター博士。ミックスダウンはDTM君がオペレーションしている

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DTM君「これが2018/2時点にボクがミックスダウンの作業をやらせてもらった作品です。ギター博士の曲なので、エレキギターの音はちょっと大きめのバランスになっていますね。今ミックスバランスを聞き返すと『もっとああしとけばよかったかなぁ…』と反省することもありますが、また次の作業の時に頑張りたいです!」

ミックスダウンに正解は無い

mix

本題に入る前に、ミックスダウンにおいて最も大切なことを知っておかなければなりません。

それは「ミックスに正解は無い」ということです。

例えば、ロック系のバンドサウンドをミックスするとなった場合、「歌モノなのでボーカルを全面に出したい」という人もいれば、「左右のギターを出してインスト寄りのサウンドに仕上げたい」という人もいます。「巨大な音圧を得て大迫力のサウンドにしたい」という人もいれば、「あえて音圧を下げてダイナミクスを活かしたい」という人もいる訳です。

もちろんどれも間違った話ではありません。かといって「それが本当に正解なのか?」と聞かれても誰も答えられないでしょう。

ミックスダウンへの基本的な考え方として、「楽曲のジャンルや方向性を活かすミックスを目指す」ということを覚えておきましょう。曲によってミックスの手法を調整しながら、どうすれば理想の2MIX音源に仕上がるのか考えながら作業をしてみてください。

「正解」ではなく「最適」を求めながらミックスしていきましょう。

ミックスダウンの手順

ミックスダウンの手順は人によって大きく異なりますので、ここではDTM君の手順を一例として紹介していきます(既にトラックにオーディオデータが取り込まれており、ミックスを開始できる状態からスタート)

  • 1. オーディオデータの編集
  • 2. MIDIデータをモノラルに変換
  • 3. トラック毎にプラグインをインサート
  • 4. 音量レベル+Panの調整
  • 5. オートメーションの入力
  • 6. 書き出し

それでは順番に見ていきましょう。

1. オーディオデータの編集

まずはオーディオデータの「前処理」から始めていきます。音量レベルのノーマライズ(正規化)からノイズや無音部分の消去、ピッチ補正などを中心に行います。

ノーマライズ(正規化)

音量が小さく録音されてしまった音源に対しては、レコーディングしたオーディオ波形の最大音量レベルである0dbまで持ち上げる機能「ノーマライズ」を施します。「ノーマライズは音質劣化に繋がる」というエンジニアもいますが、プロの現場ならともかく、自宅で楽しむDTMではそこまで気にする必要は無いと筆者は考えています。音質劣化よりも「本来必要な音量レベルが不足している」ことの方が問題なので、まずはノーマライズを行いましょう。

無音部分の削除

歌やギターが入る直前や歌入れが終わった直後などに入ったノイズを取り除くために、ボーカルやギターの録音データの音が入っていない部分だけをカットします。ノイズはミックスダウンにおいてとても厄介な存在です。殆ど聴こえないレベルでも複数重なると「コンプレッサーの効き具合に影響」が出てくるので、意図的しない限り無音部分は消去することをオススメします。

rec-audio1

ちなみに、ボーカルのブレス(息つぎの音)は楽曲の味である場合が多いです。その場合、ブレスまで消してしまわないよう注意して作業しましょう。
rec-audio2

【ボーカルトラック】ピッチ補正を行う

歌モノの楽曲の場合、必要であればピッチ補正を行います。多少ピッチがずれていてもそれが味となる場合があるので、よほどひどい場合で無い限り、ピッチ補正は最低限に留めておくと良いでしょう。
Dawソフト内蔵のピッチ補正プラグインもしくは別売りのピッチ補正ソフトを使って作業していきます。有料のピッチ補正ツールは補正したことを感じさせないほど高性能な物ばかりなので、歌モノのミックスダウンが多い方は導入しておくことをオススメします。

2. MIDIトラックをオーディオトラックにバウンスする

ドラム音源・ベースシンセなどのソフトウェア音源の中には、ステレオ出力されているものがいくつかあります。ベースラインやリードシンセなど重要な役割を持つ音をステレオのままにしておくと、音の芯や音圧/迫力がなくなってしまうので、必要があるMIDIトラックについてはオーディオにバウンスしてモノラルに変換します。

「Bnce」ボタン

ソフトシンセをモノラルバウンスする場合、バウンスしたいトラックをソロ状態にし、Output をモノラルにしてバウンスを実行します。(Logic Proの場合、Output ミキサー右下の「Bnce」ボタンを押してバウンス)

3. トラック毎にプラグインをインサート

ボーカル、ギター、ベース、ドラムなど各トラックに必要に応じてエフェクトをかけます。
ミックスダウンで大活躍!オススメのVSTプラグイン特集
空間系エフェクトはまとめて使う:AUXトラックを駆使してエコなミックス作業を目指そう

コンプレッサーやイコライザーなど、各エフェクトの効果的な使い方は別ページで解説しますので、ここでは割愛します。
イコライザーの使い方のコツ
コンプレッサーの使い方のコツ

イコライザーが先か?コンプレッサーが先か?

各トラックを処理する上で、イコライザーが先なのか、コンプレッサーを先なのかわからなくなるかと思います。これに関してはプロのエンジニアでも見解が分かれるみたいですが、当サイトとしては「どちらからでもOK」というスタンスです。ただ、ミキシング関連の著名な書籍ではイコライザーを先にインサートしている傾向にあるので、何も拘りが無ければイコライザーから選んでおけば良いでしょう。

4. 音量レベル+Panの調整

ミックスダウンの中でも非常に重要な工程です。まず各パートの定位(Pan)を振っていき、続いて音量レベルをDawソフトのミキサー画面のフェーダーを使って調整していきます。音量バランスと定位がうまく取れるかどうかで最終的な仕上がりが変わってくるので、焦らず丁寧に作業を進めることをオススメします。

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DTM君「2020年5月時点の自分のミックスです。ミックスダウンは音量レベルの調節が一番大事だと思うようになりました。フェーダーの上げ下げと、EQですね。もうこの2つだけで曲の印象がガラって変わると思ってます。EQの後でコンプが重要!って感じですかね…」

全てのトラックを鳴らしてパートの定位を考える

音量レベルの調整に入る前に、全てのトラックを鳴らして各パートの定位を決めていきます。モニタースピーカーを使ってできる限り大音量で鳴らし、左右対称になるようにバランスの良い配置を心がけてください。この段階では音量レベルを気にする必要はありません。

例えば典型的なバンドサウンドをミックスダウンする場合、目の前で演奏させたらどう聴こえるだろうか?ということを考えてみてください。

ボーカルとキックとスネアはセンターに、ベースも楽曲上ではセンターに配置するのが定石です。

その他ドラム関連の振り分けは人によって異なりますが、自信が無ければドラム音源そのままの定位を使っても良いでしょう。

ギターは大抵の場合、「左右二本ならLRそれぞれ75程度」に配置し、「左右+センターの三本ならLR95+センター」に配置します。パートの定位が被らないように注意し、Lの100からRの100まで、バランス良く配置していくのがPan振りのコツです。

【ボーカルトラック】オートメーションを使用する

レコーディングしたボーカルのオーディオトラックは、よほど歌に技術があるか、歌録りの時に気をつけているかしない限り、全体を通して音量バランスが均一になっていない場合が多いです。全体の音量を調節できたら

  • バッキングに埋もれて、聞き取りにくい箇所
  • ボーカルだけが不必要に大きい箇所

など、オケとのバランスが馴染むようにボリュームカーブを描いていきましょう。

音量レベルを調整する順番

まずは「キックだけをソロ状態」にして鳴らしてみましょう。その際に「マスターボリュームが-8dB~-10dB」の間に収まるよう調整してみてください。キックではなくDAWのマスターボリュームのレベルなので注意しましょう。

音量レベルを調整する順番は人それぞれですが、実際はキックから鳴らし始めるエンジニアが多いので、ここでもキックからスタートする形で進めていきます。

キック以降の順番について、ここに歌モノをミックスダウンする際の筆者の例を挙げたいと思います。

  • 1. キック
  • 2. スネア
  • 3. ハイハット
  • 4. メインボーカル
  • 5. ベース
  • 6. タム
  • 7. オーバーヘッド
  • 8. コード系パート(ピアノやギターバッキングなど)
  • 9. フレーズ系パート(ギターソロなど)
  • 10.コーラス(ハモり)
  • 11. SEなど

まずは楽曲の土台となるドラムの中でも主要なパートから固めていきます。

キックとスネア、ハイハットの三点を基本とし、そこに主役であるメインボーカルを乗せ、さらにベースを乗せて低音を固めます。

以降は順番にパートを足していき、低音から超高音まで、バランス良く音が鳴っているようなミックスを目指していきます。常にアナライザーで状態を確認しながら作業を進めるのがポイントです。マスターボリュームのピークが【-6dBから-3dBの間】に収まる2mixを作りましょう。

ハマってしまったら「1. キック」からやり直し!

メインボーカルの音量を調節した段階で全体を聞いてしっくりこない場合、なるべく手順「1.キック」からやり直すことをオススメします。途中で各トラックのパラメータを設定しなおすとバランスが一気に崩れてしまい、「こっちを変更したらこっちが悪くなった」などの悪循環に陥りかねません。

ハマってしまったと感じたら一旦休憩して、再度ドラムのキックとベース音の調節からやり直してみると上手くいくことが多いです。

5. 書き出し

楽曲をステレオデータに書き出してWAVやaiffデータで2ミックスを作成。DAWソフトのバウンス機能を用います。以上でミックスの工程は終了。
最後の工程、マスタリングに移ります。
マスタリングのコツ
マスタリングに押さえておきたいオススメのソフトウェア・プラグイン

2ミックスは色々な環境で聞こう

ミックスが終了すればあとはマスタリング作業を残すのみですが、マスタリングではステレオデータである2ミックスを編集していく作業ですので、音量バランスの悪さなどは補正できません。したがってミックス終了時までに音量バランスなどは完璧にしておく必要があります。

作業していたモニターだけでなく、ラジカセやパソコン、iPhone・iPodに接続したヘッドフォン、カーステレオなど…想定内のリスニング環境で繰り返しチェック、気になった点は修正します。
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