グライムス(Grimes)について

[記事公開日]2015/1/17 [最終更新日]2026/9/27
[編集者]神崎聡

2012年のアルバム『Visions』で世界的な注目を集めた、カナダのバンクーバー出身の女性アーティスト、Grimes(グライムス)。
トラックメイカー、シンガーソングライターとしてだけでなく、PVの制作においては監督(ディレクター)もつとめ、プロデューサーとしても活躍している女性ミュージシャンです。

2014年には、当時世界的な流行になっていたアイスバケツを頭からかぶる「ALS ICE BUCKET Challenge」への参加を拒否して話題になりました。
これはカリフォルニア州の干ばつによる水不足を配慮してのことだそうです。
また、この「ALS ICE BUCKET Challenge」キャンペーンを実施しているALS協会が動物実験を行なっている点を指摘して寄付も拒否し、その代わり教育を支援しているマララ基金へと寄付したことを表明しました。

このように社会の流れに流されることなく、自分のポリシーで判断し行動する態度は、言動だけでなく音楽性、映像作品、ファッションも含めて、彼女全体の世界観に表現されています。
その意味でも「すべてが独特な存在感を放っているアーティスト」と言えるでしょう。

バイオグラフィー

本名:Claire Elise Boucher (クレール・エリス・ブーシェ)

1988年3月17日  カナダ・バンクーバー出身。
バンクーバー市西部のウエストポイントグレイ地区にあるロードビング・セカンダリースクールを2006年に卒業しています。
幼少期からバレエを習っており、10代前半まで打ち込んでいました。
その当時はまだ音楽の創作や活動しておらず、一人のリスナーとして楽しむスタンスで音楽に接していました。
マリリン・マンソンやトゥールなどのロックバンドを好んで聴いていたそうです。
またメタル系のアートワークや中世的な芸術的表現を好んでいました。

18歳になるとカナダのモントリオールにある大学、マギルユニバーシティに入学しました。
そこでは哲学や神経科学などを学び、ロシア語を副専攻としていたとのことです。
しかし最終的には授業に出席しなくなり、2010年末から2011年初頭にかけて大学を退学しています。

丁度その時期に、彼女が13歳の頃から付き合っている友達のセバスチャン・コーワン(Sebastian Cowan)らが、モントリオールのロフト「Lab Synthèse」を拠点に活動していたアーティストコミュニティに深く関わるようになります。
このコミュニティのバンドを後押しするために2009年に立ち上げられたのが、音楽レーベル「Arbutus Records」です。
このArbutusの友人達の影響を受け、創作と音楽活動を開始しました。

この頃は現在のようなポップな要素を含んだ音楽を作ってはおらず、本人曰く「実験的なドローン音楽のようなもの」で、とてもダークでダウナーかつ難解な音楽を創作していたそうです。
やがて、ポップな感覚も作品に取り入れるようになり作品も現在に近い音楽へと変化していきます。

そして2010年に音楽レーベル「Arbutus Records」よりファーストアルバム「Geidi Primes」をリリースしました。
SF小説『デューン』に着想を得たコンセプト作です。
同じ2010年にはセカンドアルバム「Halfaxa」も発表し、精力的に活動を続けていきます。

4ADからの『Visions』で世界的なブレイク

2012年2月、イギリスの名門レーベル4AD(カナダではArbutus)からサードアルバム「Visions」をリリースしました。
モントリオールの自宅アパートで約3週間で制作されたとされる作品で、シングル「Oblivion」はPitchforkの2012年ベストソングの1位に選ばれています。
2013年にはカナダのジュノー賞で「エレクトロニック・アルバム・オブ・ザ・イヤー」を受賞し、わずか数年で世界的にその動向が注目されるアーティストとなりました。

日本では2012年8月のサマーソニックで初来日を果たし、2013年3月には大阪・名古屋・東京のクラブクアトロを回る単独ツアーを行っています。

サードアルバムVisionsより「Oblivion」

『Art Angels』と『Miss Anthropocene』

2014年には、Blood Diamondsと共作したシングル「Go ft. Blood Diamonds」を発表しました。
もともとはリアーナに向けて書いた曲だったことでも話題になりました。

Grimes – Go ft. Blood Diamonds

2015年11月には、4thアルバム「Art Angels」を4ADからリリースしました。
2013〜14年に制作した音源の大半を破棄して作り直したアルバムで、全曲のプロデュースとエンジニアリングを本人が担当しています。
ギター、ドラム、キーボード、ウクレレ、ヴァイオリンも一から弾き方を覚えて自ら演奏・録音しました。
NMEの年間ベストアルバムに選ばれるなど高い評価を受け、2016年1月には東京・大阪で来日公演を行っています。

Art Angelsより「Flesh without Blood/Life in the Vivid Dream」

Art Angelsより「Kill V. Maim」

2018年にはJanelle Monáe「Pynk」、2019年にはBring Me the Horizon「Nihilist Blues」にフィーチャリング参加するなど、他アーティストとの共演も増えていきます。
2020年2月には5thアルバム「Miss Anthropocene」を4ADから発表しました。
本人はこの作品を「mostly ethereal nu metal(ほぼ幽玄なニューメタル)」と表現しています。
同年にはゲーム『Cyberpunk 2077』でポップスター「Lizzy Wizzy」を演じ、楽曲「Delicate Weapon」を提供しました。

Grimes & i_o – Violence (Official Video)

2021年以降の活動

2021年にColumbia Recordsと契約し、6thアルバム『Book 1』を予告してシングル「Player of Games」「Shinigami Eyes」を発表しました。
しかしその後レーベルとの契約は解消され、『Book 1』は発表されないままとなっています。

Grimes – Player Of Games (Official Video)

2023年4月には、自身の声を使ったAI生成曲がヒットした場合にロイヤリティを50%ずつ分け合うと表明しました。
同年5月には、歌声をグライムスの声に変換できるAIツール「Elf.Tech」を公開しています。

2025年10月には、2022年の「Shinigami Eyes」以来となる本格的なソロシングル「Artificial Angels」をリリースしました。

Grimes – Artificial Angels (Official Video)

2026年4月には、生成AIを使わずに制作したという6thアルバム『Psy Opera』を予告しています。
同年8月には、ボカロPのさたぱんPとの共作で初音ミクをフィーチャーした「Miku-Maxxing」を発表するなど、日本のカルチャーとの接点も生まれています。

Miku-Maxxing (with Hatsune Miku, Grimes, & さたぱんP)

私生活では実業家のイーロン・マスクとの間に3人の子どもがいます。

グライムスの音楽的なスタイル

Grimesの作品は、クラブカルチャー的アンダーグラウンドな音楽を背景としながらも、エレクトロでポップな感覚と、トライバル(民族的)で儀式的、ヨーロッパの中世的な世界観など、極端ないくつもの要素が融合されており、他のアーティストの追随できない独自な世界観を構築しています。
音楽は全くの独学だそうです。
2010年のインタビューでは「音楽の演奏の仕方を知らないことが、私の最大の武器」とも語っています。

音楽も含めた創作全般で心がけていることは、「受け手に分かりやすい要素をどこかに入れること」とあるインタビューには答えています。
女の子として自分が好きなポップでキュートなものと、一人の人間として自分が魅かれて止まない中世の世界観などのものとを掘り下げて行った結果、この独特の世界観に到達したようですね。

サードアルバムVisionsより「Genesis」

「Genesis」のPVは、本人が好きな画家ヒエロニムス・ボスの絵画をモチーフにしており、中世カトリック的なイメージを遊び心たっぷりに描いています。

彼女は20代前半で注目され始めたころにはもう、(年相応の女の子でありながらも)ひとりの人間としても、アーティストとしても精神的に成熟しているオーラを放っていました。
そのオーラは、作品やパフォーマンスの技術や論理的な未熟さをカバーしてあまりあるものでした。

彼女はいつもありのままの自分を生きています。
そして、その態度こそが極めてアーティスト然としているという逆説的真理を体現しているアーティストでしょう。
普通の人間ではメディアに伝えないようなプライベートな事柄も、様々なインタビューへ赤裸々に解答しています。

メディアを通じて、彼女から紡がれくる言葉は、決してりきみすぎることなく、しかし信念と確信とインスピレーションに充ちています。
またインターネットをにぎわせた「ALS ICE BUCKET Challenge」キャンペーンへの不参加の表明や理由、またその代わりに取った行動などからみても、とても深い精神性をもったアーティスト、希有なポップ・アイコンの誕生と言えそうです。

Grimes & d’Eonのスプリット作Darkbloomより「Vanessa」

影響を受けたアーティスト

グライムスはインタビューで、影響源として幅広いアーティストの名前を挙げています。
ポップの面ではマライア・キャリーやビヨンセ、コクトー・ツインズなどを挙げ、特にエンヤについては「自分でボーカルをプロデュースしているので、私もそれを多く取り入れている」と語っています。
中世ドイツの修道女で作曲家のヒルデガルト・フォン・ビンゲンは、大学で論文のテーマにしたほど傾倒している存在です。

制作面では、ナイン・インチ・ネイルズの『The Downward Spiral』からの影響を挙げています。
トレント・レズナーが作曲からサウンドデザインまで自分でこなしていた点に惹かれたそうで、プロデュースもエンジニアリングも自分で手がける彼女のスタイルにつながっています。

ボーカルの重ね方

グライムスのサウンドを特徴づけているのが、高音域を生かしたボーカルを何層にも重ねるスタイルです。
活動初期には練習を重ねて4オクターブの音域に届くようになったと語っています。

2012年ごろのライブでは、ループペダルで自分の声を重ねてコーラスを作っていました。
本人は「バックシンガーは私のループペダル」と表現しています。
『Miss Anthropocene』期の未発表曲「Dark Souls」では、ボーカルを100層ほど重ねた結果「エンジニアリング的な悪夢」になったと振り返っています。

グライムスの使用機材

日本の音響機器および音楽制作機器の専門誌「サウンド&レコーディング・マガジン」2012年8月号での巻頭インタビューなどでは使用している音楽機材に関しても言及しています。
率直な印象としては、極めてアマチュア的な機材群で、既存の価値観でプログレードと呼べるものは日本でもおなじみのマイク「SHURE SM58」ぐらいでしょうか。

驚くべきは(このインタビュー当時は)モニタースピーカーも使用しておらず、macbook pro 内蔵のスピーカで制作しているとのことです。
音響的なまとまり感をリッチにしていく既存のプロフェッショナリティからかけ離れていて、発想や表現力こそが大切というのを体現していますね。
こういう感覚も新しい世代のアーティストとして輝く一因なのかも知れません。
PMCやRokitのモニターを揃えた2015年のインタビューでも、「ラップトップのスピーカーでいつもチェックしている」と語っています。

『Visions』期(2012年ごろ)の機材

PC:Apple Macbook pro
DAW:Apple GarageBand
マイク:SHURE SM-58
シンセサイザー:Roland Gaia SH-01、Roland Juno-G
ヴォーカルプロセッサー:BOSS VE-20
サンプラー:Roland SP-404SX
エフェクター:Line6 M9 Stompbox Modeler
ミキサー:MACKIE 802-VLZ3

『Visions』は、GarageBandとJUNO-Gで制作されました。
ただし本人によると、GarageBandは録音(トラッキング)に使っていただけで、2012年4月の時点ですでにLogicへ移行していたそうです。
Line6 M9とBOSS VE-20は、ギター用ではなくボーカルのエフェクトに使っていました。

2012年8月には、イギリス・マンチェスター公演の後にGAIA SH-01、SP-404、M9、802-VLZ3などのツアー機材一式が盗まれる事件もありました。

Grimes – Full Performance (Live on KEXP)

(↑1:11付近から)

どうやらRoland好きみたいですね!

『Art Angels』期(2015年)の制作環境

『Art Angels』の制作では、DAWの中心をAbleton Liveに移しています。
キーを保ったままテンポを変えたり、ピッチを自由に動かしたりできる点が気に入っていると語る一方、ボーカルの編集はLogicの方が好みで、ミックスを担当するエンジニアに渡す際はPro Toolsを使うそうです。

DAW:Ableton Live、Logic、Pro Tools
ソフトシンセ:reFX Nexus、Native Instruments Massive
プラグイン:iZotope Ozone(デモ用)、iZotope Nectar、Waves(Manny Marroquinのリバーブ)
ドラム:AKAI MPC
オーディオインターフェイス:Apogee Duet
モニター:PMC、Rokit
マイク:3Dio Free Space(バイノーラルマイク)

ドラムはMPCのクオンタイズの感触を気に入っており、シンセのクラップの上に本物の手拍子を何層か重ねるといった工夫もしています。
アルバムのミックスはMark “Spike” Stentが手がけました。

『Miss Anthropocene』以降

2020年のインタビューでは「Abletonは私の神」と語り、DAWを絵筆にたとえて、最も万能で速いのがAbleton Liveだと述べています。
ただしボーカル向けの機能はもっと充実してほしいとも話しています。
『Miss Anthropocene』収録の「So Heavy I Fell Through the Earth」では、GoogleのAI音源合成「NSynth」を試したとされています。

2017年にはROLIのBLOCKS/Equator向けにサウンドパック「Electromagnetic Pulse」を制作しました。
2023年に公開したAIツール「Elf.Tech」は、自分の声を録音またはアップロードするとグライムスの声に変換されるもので、利用は無料です。
作った曲を配信する場合は、原盤ロイヤリティをグライムスと50%ずつ分け合う仕組みになっています。

近年はDJとしても活動していますが、2024年4月のCoachellaでは曲が倍速で再生されるなどの機材トラブルに見舞われました。
本人はrekordboxのBPM解析やSDカード内の曲の整理を外部に任せていたことが原因だったと説明し、謝罪しています。

ディスコグラフィー

2010年にファーストアルバムGeidi Primesをリリース。
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同2010年にセカンドアルバム、Halfaxaをリリース。
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2011年、Grimes & d’Eonとしてスプリット作Darkbloomをリリース。
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2012年にサードアルバム、Visionsをリリース。
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2014年 シングル「Go ft. Blood Diamonds」をリリース。

2015年に4thアルバム、Art Angelsをリリース。

2020年に5thアルバム、Miss Anthropoceneをリリース。

2025年 シングル「Artificial Angels」をリリース。

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