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ボーカル用ダイナミックの「SM58」、楽器用ダイナミックの「SM57」と並ぶSHUREの定番マイクといえば、キックドラム用ダイナミックの「BETA 52A」。1996年に登場した初代「BETA 52」を、2002年に一体型スタンドアダプターのデザイン・耐久性を見直して現行モデルへとアップデートしたのがこの52Aです(カートリッジの音響特性は52と同一)。
初代の登場以来30年近くにわたり、キックドラム録音・PAの第一選択肢として使われ続けています。ネオジム磁石を採用した高出力設計と、低音楽器向けに最適化された20Hz〜10kHzの周波数特性、そしてスーパーカーディオイドの鋭い指向性により、ステージ・スタジオを問わず「迷ったらこれ」と言える信頼性が魅力です。
BETA 52Aは汎用ボーカル・楽器マイクとは異なり、低音楽器の集音だけを目的に設計されたモデルです。
周波数特性は20Hz〜10,000Hzと高域は控えめですが、その代わりに4kHz付近のアタック帯と60〜80Hzの胴鳴り帯にレスポンスのピークを持たせ、キックドラムの「ドン」と「カチッ」を素直に拾えるようチューニングされています。
EQで作り込まなくてもミックスにそのまま使える音が出てくるのは、このマイクならではの強みです。
トランスデューサにはネオジム磁石が採用されており、感度は−64 dBV/Pa(0.6 mV)@1kHz。最大入力音圧レベルは174 dB SPL @1kHzと、キックドラムやベースアンプの極端な高音圧でも歪まず受け止められる懐の深さがあります。
出力レベルも十分に高く、家庭用オーディオインターフェースのプリアンプでもS/N良く録れるのが、宅録ドラマーにも嬉しいポイントです。
BETA 52Aの外見上の最大の特徴が、本体と一体化したダイナミック・ロッキング・スタンド・アダプター。マイクホルダーが要らず、XLRコネクタの根元から直接マイクスタンドに固定できるため、キックドラムのフロントヘッドの穴から内部に差し込むようなセッティングも容易です。
激しいステージングでマイク位置がズレにくく、PA現場での扱いやすさにも直結します。
グリルには凹みに強い硬化スチールメッシュを採用し、キックの強烈な風圧やマイクスタンドへのぶつけにも耐える堅牢な作り。
内部にはエアー式(ニューマチック)ショックマウントを備え、ステージから伝わる振動やフロアの揺れによるノイズを抑え込みます。
キックドラム用マイクの選択肢はBETA 52Aだけではありません。ライブ・スタジオの現場で定番として並ぶのは、AKGの「D112 MkII」、Audixの「D6」、Sennheiserの「e 902」、そしてSHUREの兄弟機にあたる「BETA 91A」あたり。それぞれキャラクターが異なるため、どんな音を狙うかで選ぶマイクが変わってきます。
| 項目 | SHURE BETA 52A | AKG D112 MkII | Audix D6 | Sennheiser e 902 | SHURE BETA 91A |
|---|---|---|---|---|---|
| 方式 | ダイナミック | ダイナミック | ダイナミック | ダイナミック | コンデンサー(バウンダリー) |
| 指向特性 | スーパーカーディオイド | カーディオイド | カーディオイド | カーディオイド | ハーフカーディオイド |
| 周波数特性 | 20Hz〜10kHz | 20Hz〜17kHz | 30Hz〜15kHz | 20Hz〜18kHz | 20Hz〜20kHz |
| キャラクター | 素直なアタックと胴鳴り、汎用性高め | 100Hzと4kHzにピーク、クラシックなキックの音 | 強くスクープされた中域、モダンで派手 | EQ不要でミックスに馴染む、自然系 | キック内部設置専用、スナップが強い |
| 主な使用位置 | キック内外どちらも可 | キック内側〜フロントヘッド付近 | キック内側のビーター近く | キック内側 | キック内部の床面に直置き |
| 設置のしやすさ | 一体型アダプターで容易 | 専用クリップ・スタンド必要 | スタンド必要 | 一体型スタンドマウント | 本体を床に置くだけ、スタンド不要 |
ざっくりした選び分けの目安は次の通りです。
EQで作り込まずに使える素直さが欲しいならBETA 52A、クラシックなロックのキック音ならD112 MkII、モダンなEDM/メタル系の派手なキック音ならD6、ナチュラルに録ってミックスで作り込みたいならe 902、そしてキック内部に置いてスナップを足したいならBETA 91A──というイメージで整理すると分かりやすいでしょう。
BETA 52Aがいまも定番として推されるのは、特定ジャンルへの過剰な味付けがなく、ロック・ポップス・ジャズなどジャンルを問わず外しにくい点にあります。

プロのライブ・レコーディング現場でしばしば見かけるのが、BETA 52Aと兄弟機のBETA 91Aを2本同時に使うセッティングです。
BETA 91Aはキック内部の床面に直置きするバウンダリー型コンデンサーで、ビーターの直近で「カチッ」というアタックの芯を拾うのが得意。一方、BETA 52Aはフロントヘッドの穴付近に立てて、胴鳴りや低音の量感を担当させるのが定番の役割分担です。
2本のマイクをミックスでブレンドすることで、「アタックの粒立ち(91A)」+「胴鳴りの厚み(52A)」という、1本では得にくい立体感のあるキックサウンドが作れます。
位相のチェックは必要ですが、ライブPAではモニター返しのハウリングマージン確保にも有利で、メインマイク1本では物足りないと感じる現場で次の一手として有効なアプローチです。
BETA 52Aをキックドラムに使う場合、フロントヘッドのホール(穴)からマイクをどれだけ深く入れるかでサウンドが大きく変わります。ビーターの近く(深め)に入れるとアタックが強調され「ドン・カッ」と硬めの音に、ホールの外側(浅め・5cm程度内側)に置くと低域の量感が増えて「ドゥン」と太めの音になります。
スリーブヘッド(穴なし)のキックでは、フロントヘッドから5〜10cmほど離した位置を起点にし、ヘッド面に対して斜め45度程度で狙うのが定番のセッティングです。
低音楽器全般に使えるBETA 52Aは、ベースアンプ・ベースキャビネットの集音にも好相性です。
スピーカーコーンの中央〜エッジの中間あたりを狙うと、芯のあるミッドローと無理のない低域がバランスよく拾えます。コーン中央を直撃するとアタックが強く出すぎる場合があるので、エッジ寄りに少しずらすのがコツ。
50cm前後離してオフマイクで使うと、低音の量感がより自然に乗ります。
キックほど巨大な音源ではないカホンのサウンドホールや、コンガ・ジャンベの底面といった低音パーカッションにも応用が効きます。
サウンドホールの真正面に置いて10〜15cm離すあたりが起点。BETA 52Aは174dB SPLまで歪まないため、強く叩いても余裕で受け止めてくれるのが頼もしい点です。

ドラム録音用にマイクを一式揃えたい場合は、BETA 52A×1+SM57×3+ドラムマウントA56D×3+キャリングケースをセットにした「DMK57-52」が定番。
SM57はスネア・タムの定番、A56Dはタムリムへの装着が可能なドラムマウントで、キック・スネア・ハイ&ロータムをこれ1セットでカバーできます。
バラで買うより割安なため、はじめてドラム用マイクを揃える方は検討の価値あり。
キックドラム用マイクの世界には、もっと派手なキャラクターを持った機種も、もっとモダンな低域を作ってくれる機種もあります。それでもBETA 52Aがいまだ第一選択肢として挙げ続けられるのは、「どんなジャンルにも当てはめやすい素直なキャラクター」「EQで作り込まなくてもミックスに使える音」「現場で扱いやすい一体型スタンドアダプター」という、3つの要素を高いレベルで両立しているからにほかなりません。
バンドサウンドの土台を支えるキックドラムとベース。ここの音が決まらないとミックス全体の説得力も生まれません。
「とりあえずキックに1本、間違いのない選択肢を持っておきたい」──そう感じている方にとって、BETA 52Aはいまも最初の1本として強く勧められる定番機種です。
SM57を3本+BETA 52A+A56Dマウントを揃えたDMK57-52のドラムマイクキットも合わせて検討すれば、ドラム録音環境を一気に整えられます。
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