ゲームや劇伴音楽の制作におすすめのシネマティック音源[記事公開日]2021年6月25日
[最終更新日]2021年06月25日

シネマティック音源

映画、テレビドラマやゲームなどの映像のバックで流されるバックグラウンドミュージック。日本語で劇伴とも言われ、映像とリンクする情景的なサウンドが求められる世界です。そのような音楽に必要なサウンドが手軽に得られる音源が「シネマティック音源」と総称されるもので、昨今人気が高まっています。このような音源について掘り下げてみましょう。

シネマティック音源とは?

シネマティック音源とは、文字通り”映画的な音楽”に使われる音源を意味します。映画のBGMやトレーラーで使われるようなものを筆頭に、テレビドラマ、あるいはゲームなどでよく聴かれるようなサウンドをまとめ上げたもので、その内訳は映画音楽のイメージそのままの仰々しく壮大なものから、もの悲しい寂寥感を感じる叙情的なものまで、多彩な楽器やサウンドがフィーチュアされます。共通した要素として、深い残響や緩やかな減衰などがあり、単一の楽器だけでも心地よい、あるいは劇的なサウンドになっているものが多く見られます。

シネマティック音源に使われる楽器

オーケストラ楽器

オーケストラ楽器

シネマティック音源のメインとなり得るカテゴリー。ひとくちにオーケストラ楽器と言っても、内部でストリングス系、金管、木管など分かれており、まとめてパッケージされた総合音源から、個々の楽器のみが収録されている音源まで、多様な製品が展開されています。例外なく幅広いダイナミクスを持ち、深みのあるリバーブ成分を含んでいます。

ギター、ピアノなど

オーケストラ系同様、深い残響成分が含まれていることが常。減衰する音の上にシンセのパッド成分が乗ってきたり、ギターについてはアタックを消し去ったスウェル奏法のサウンドが含まれるなど、通常の音色の延長に加工が施されたものも多く見られます。

ドラム、パーカッション

他楽器同様、広大な世界をイメージするための深く広い残響がセットされ、パンチの効いた強いサウンドを持ち、幅広いダイナミクスに対応します。音の減衰が緩やかなものが多く、スパッと切れるようなタイトさは無い場合がほとんど。大口径のバスドラムやシンバル系は大きくフィーチュアされやすく、ラテンパーカッション系のサウンドも、深いリバーブとともに搭載されることがあります。

ボーカル

シネマティックサウンドに合わせたコーラス系、女性ボーカルのヴォカリーズ系サウンドを軸とし、それを複数重ねたパッド音、素材としてループさせたものなどが音源となっています。

シンセ系

オーケストラ系に並び、幅広く豊富かつシネマティック音源のメインとなっているのがこのシンセ系音源。宇宙的なパッド音や、地を這うような強力なシンセベースなど、使われるサウンドのバリエーションも多岐に渡り、生のストリングスや木管系にシンセ音を混ぜた、オリジナルのハイブリッドな音色がフィーチュアされることも珍しくありません。シンセ音を軸にしたループ素材なども人気があります。

Epicとは?

シネマティック系サウンドが大きく使われた音楽の中に、Epicと呼ばれるものがあります。これは通常の映画音楽的なものに比べて、より歴史的、詩的、民族的とも呼べるサウンドのもので、より物語的要素の強い音楽のことを指しています。壮大さよりも叙情的であったり勇壮的であったり、雰囲気が重視される傾向にあり、映画音楽やゲーム音楽などのサブジャンルとして昨今よく知られています。
中には仰々しいものもありますが、土臭くもの悲しい雰囲気の楽曲が多いこともあり、民族音楽に由来する音源も好まれて使われています。ヨーロッパ土着のフォーク音楽で使われる特殊な民族楽器や、上で紹介したシネマティック音源類の中でも、木管系やボーカルは相性が良いようです。

世界的に著名な劇伴作家

ハンス・ジマー

ドイツ生まれ、アメリカ在住の作曲家。無数の映画音楽を手がけ、1994年「ライオンキング」でアカデミー賞を受賞しています。日本では「パイレーツ・オブ・カリビアン」や「バックドラフト」のテーマ曲がよく知られています。

ルドウィグ・ゴランソン

スウェーデン出身、ロサンゼルス在住。2018年、伝統的なアフリカ音楽の要素を取り入れた「ブラックパンサー」で、アカデミー賞を受賞。映画作曲家としてのみならず音楽プロデューサーとしても活動しており、彼が手がけたドナルド・グローヴァーのアルバムはグラミー賞にノミネートされるなど、その才能をいかんなく発揮しています。

アラン・メンケン

ニューヨーク出身の映画およびミュージカル音楽作曲家。数多くのディズニー映画における楽曲でアカデミー賞を多数受賞しており、日本でも最も有名な作曲家の一人です。映画に携わる以前からミュージカルへの指向は強く、90年代よりミュージカルの作曲も精力的に行っています。

おすすめのシネマティック音源

通常のオーケストラ系楽器などに深いリバーブを掛けて、それらしい雰囲気のものを作り出すことはできます。しかし、シネマティック音源専用に作られた製品は、相応のサウンドデザインが施されており、何よりその目的でわざわざレコーディングが行われているため、素材からしてたどり着くのは難しいと言わざるを得ません。シネマティック音楽を指向するのであれば、是非専用音源を用意したいものです。

Spitfire Audio ALBION ONE

ヴァイオリンの高品質音源などを多数リリースする、Spitfire Audioの代表的シネマティック音源。109名の演奏家によって実際の映画音楽と同じロンドンのAir Studiosで収録された数々のオーケストラ、ドラム音源を筆頭に、膨大なパーカッションループ集”Brunel Loops”、オーケストラのサウンドをベースに構築された無数のシンセ音源”Stephenson’s Steam Band”から成る、統合型音源となっています。オーケストラにおける様々な演奏テクニックが網羅され、録音に使うためのマイクポジションは4種を自在にミックスしてサウンドをデザイン可能。全てのシネマティック音源の出発点にして、トータルなマルチ音源として非常に強力な存在で、これ一本でほとんどの部分は賄えるでしょう。

SPITFIRE AUDIO ALBION ONE – Supernice!DTM機材

Spitfire Audio ALBION V TUNDRA

北欧の森の香りをイメージするオーケストラ音源と銘打たれた”ツンドラ”オーケストラを筆頭に、静謐かつ冷たいサウンドという軸を元に構築されたマルチ音源。オーケストラの録音には、その冷たさと煌めきを表現するために、あえてヴィオラを外した編成で行われ、アンビエンスよりも楽器の生音を優先して録音されました。結果としてAlbon Oneのオーケストラに比べ、冷たく硬めのサウンドが実現されています。その他、V Tundraのために開発された静謐で幻想的なグラニュラーシンセ”Vral Grid”、ALBION ONE同様Stephenson’s Steam Band、Brunel Loopsも搭載され、こちらはイメージに合わせて異なるアプローチで制作されています。

SPITFIRE AUDIO ALBION V TUNDRA – Supernice!DTM機材

OUTPUT ANALOG STRINGS

アメリカ発、その独創的なサウンドが人気のブランドOUTPUTが送り出すストリングス系音源。ブダペストのホールで60ピースの弦楽器、22ピースのオーケストラなどが緻密にレコーディングされ、通常の奏法のみならず、あまり使われない独特な奏法までを収録しています。オーケストラの他にも、ストリングス系のシンセ音源、その他ピアノやギターの音をソースとした独自のサウンドを”Creative”とカテゴリしパッケージング。全体的にドラマティックで、インパクトの強いサウンド傾向を持っており、シンセ系音源などでは特に複雑にレイヤーが重ねられた独特なサウンドが特徴。編集の柔軟性も非常に高く、幅広く活躍できること間違いないでしょう。

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OUTPUT ANALOG BRASS & WINDS

上のストリングス系に対し、こちらは金管、木管系のサウンドに特化したパッケージ。ストリングスと同じく、ブダペストのホールで18ピースのブラスセクション、18ピースのウッドウィンズセクションが収録されています。サウンドの傾向もAnalog Stringsと同じ路線で、派手で複雑かつ独創的。通常のオーケストラ系の他、ブラス・ウインズ系シンセ音源、実際のブラスやウッドウィンズやピアノなどを重ねた独自のCreativeカテゴリの3種からなるパッケージです。

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Heavyocity NOVO: MODERN STRINGS

シネマティック音源の代表的ブランドであるHeavyocityのストリングス専用音源。ワーナースタジオのEastwood Scoring Stageにて録音されたストリングスサウンドを元にして、通常のストリングス音源であるTraditional、またそれにサウンドデザインを施した独自のEvolveという2種のインストゥルメントがパッケージされています。様々な奏法とアーティキュレーションを細かく調整可能で、スタッカート奏法などについてはダウンボウとアップボウのサウンドが別に収録されるほど細やか。マイクポジションは3箇所での録音を指定あるいはブレンド可能と、ストリングス専用だけあり、極めて緻密なサウンドデザインが行えます。Evolveインストゥルメントについてはシンセのようにサウンドを作り替えていくことができ、独自のシーケンサーやグリッチエフェクトなども搭載。全体的に静謐で落ち着いた冷たいサウンドの傾向があり、Epic系の楽曲にも最適でしょう。

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Heavyocity DAMAGE 2

DAMAGE 2

Damageという名の通り、迫力のあるパーカッション系専用音源。24~72インチのグランカサス(大型バスドラム)、24~60インチの太鼓、その他スネア、タム、シンバルからゴミ箱やポールに至るまで、あらゆる打楽器1600個分のサウンドが収録されています。それらのソースを使いこなすためのツールとして、奥行きやマイクポジションなどを含めたサウンド編集を行うEnsemble Designer、単一の音色を組み合わせ独自のドラムセットを構築するKit Designer、リズムパターンを重ね合わせて独自のループを作り上げるLoop Designerの3種を搭載。特にLoop Designerの完成度の高さは、この製品の魅力に直結しており、プリセットを流すだけで迫力のある音世界を簡単に構築できるほどです。シネマティック音源のカテゴリですが、映画音楽やゲーム音楽のみならず、通常のロック等にも使えるほどの守備範囲の広さを感じます。

clear

DTM君「動画16:33〜、ギター以外のトラックは全てDAMAGE 2で作りました。あらかじめ作り込まれたサウンドは、そのままでクオリティめちゃ高いです。なかなか自分でこのサウンドを作り出すのは難しいでしょうね。色々なところで使っていけそうな音源ですよ!」

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Heavyocity Vocalise 2

Heavyocityのボーカル音源。実際にレコーディングされたボーカルに独自のサウンドデザインが施されており、複数のサンプルを重ねたボーカルパッド音、メロディックなボーカルのフレーズやアンビエントの強い歌声など、幅広いサンプルが190種類収録されています。サウンドは全体的に冷たく静謐なものが多く、深いリバーブも相まって、ケルティック系のサウンドなどを彷彿させますが、シンセ系音源などと同じく、EQやフィルターによる編集でさまざまな表情のものを作ることができます。また、搭載されるシーケンサーを使い、エフェクティブなサウンドを構築することも可能。民族音楽などをベースとしたEpic系に好相性ですが、元が歌だけあって、通常のロックポップス系音楽に合わせることも可能でしょう。

Heavyocity Vocalise 2 – Supernice!DTM機材

BEST SERVICE CELTIC ERA

ドイツに本社を置くBest Service社の送るケルティック楽器専用の音源。実際のアイリッシュ音楽のプレイヤーによって録音された楽器類は非常に多岐に渡っており、バウロンを始めとするパーカッション、アイリッシュフルートやユリアンパイプ、ティンホイッスルなどの管楽器、ケルティックハープ、アコースティックギターなど弦楽器、さらに青銅器時代から使われていた古楽器まで、楽器毎の特徴的な奏法やアーティキュレーションを含めて収録されています。パーカッションや弦楽器についてはフレーズがマッピングされており、あらかじめセットされたスタイルを使う事で、自然な演奏を再現する事が可能。また、シンセやベルなどを重ねたサウンドスケープ音源も20種類を収録し、多彩なシチュエーションに対応できます。ジャンル的にも、世界観が明確な映画やゲームなどで本領を発揮する音源ですが、他の製品とは違い、リバーブの掛からないドライな状態のサンプルが収録されており、幅広い用途が見据えられていると言えそうです。ちなみに、Best Serviceの音源はいずれもホストがNI Kontaktではなく、自社の「ENGINE 2」に対応となっています。

BEST SERVICE CELTIC ERA – Supernice!DTM機材

BEST SERVICE FOREST KINGDOM 3

森林、雨、鳥の鳴き声など、自然をイメージする音源が多数揃えられたパッケージ。同社のForest Kingdom、Forest Kingdom 2の全音源に、新しく様々な楽器が追加収録されたシリーズ決定版とも呼べるものです。従来のシリーズに含まれていた無数のパーカッション、カリンバやケルティックハープ、ブルガリアンフルートやバグパイプなどの民族楽器、シャーマンの詠唱や透き通る女声などのボーカル音源から、3で新しく収録されたネイティブアメリカンフルートまで、情景的で自然を感じさせるサウンド、楽器の宝庫です。複数のインストゥルメントをレイヤーしたSoundscapeカテゴリでは、神秘的なサウンドを創出できるのものが連なり、いずれもモジュレーションホイールでサウンドスケープを変化させ、動的な演出が可能。いわゆる他のシンフォニックなシネマティック音源とは一線を画した、”土臭い”サウンドはなにより魅力で、まさに音で情景を描くことができる音源と言えるでしょう。

BEST SERVICE FOREST KINGDOM 3 – Supernice!DTM機材


重厚的なサウンドが手軽に得られるのがシネマティック音源の魅力。それを使いこなすためのテクニックや知識は必要ですが、何より真に迫ったサウンドが自宅で簡単に再現できるのは、この上ない武器となるでしょう。このような音楽性を志向する方であれば、確実に揃えていく価値があるはずです。