不動の人気を誇るシネマティック音源:Heavyocityのサウンドとは?

[記事公開日]2022/2/20 [最終更新日]2022/4/22
[編集者]神崎聡

Heavyocity

シネマティック音源のカテゴリにおいて不動の人気を誇るHeavyocity。どのような特徴があり、どのような製品をリリースしているのか、詳しく迫ってみましょう。

Heavyocityとは

1989年、バークリー音楽院在籍中に出会ったデイブ・フレイサー、ニール・ゴールドバーグの両氏。彼らは卒業後プレイヤーとしての活動を経ると、やがて二人ともがコンポーザーをメインとして活躍するに至ります。2003年、ゲーム音楽などを制作する会社として二人でHeavy Melody Music社を立ち上げると、程なくしてアリ・ウィンターズ氏がチームに加わることになりました。才能溢れる3人は数多くのゲームのBGMを制作した後、やがて制作の業務から離れ、優れたヴァーチャルインストゥルメント音源をつくりだす方に舵を切ります。そして2006年、新たにHeavyocity Media社を立ち上げると、第1作目のEVOLVEを開発し市場に投入。これが大絶賛をもって迎えられたことが、今に続くHeaviocityの躍進の第一歩となりました。

社の創業より20年と経たない現在、すでに映画音楽やゲーム音楽など、壮大なスケールのサウンドに特化した音源のメーカーとして定番の地位を確立。Damage、Gravity、NOVO、FORZOなどの代表的な製品は、プロフェッショナルからアマチュアまで多数の制作家に愛されています。

Heavyocityの音源の特徴

Heavyocityの音源 Symphonic Destruction

Heavioctyの音源は、深いリバーブや宇宙的なパッド系のサウンドなどを得意とし壮大なスケールを感じさせるため、大仰な音楽にはまさに最適。その反面、楽器までの距離を感じさせ、ふくよかな響きを伴うサンプリングが目立つため、少人数編成の音楽には合わないものがほとんどです。これには前身であるHeavy Melody Music社がゲーム音楽の制作会社であったことも関係しているでしょう。このようなサウンドの音源は「シネマティック音源」と呼ばれ、昨今ひとつのカテゴリを形成していますが、Heavyocityはまさにこの分野において先駆的であり、代表的な会社ということができます。

オリジナルな音色

単なるストリングスやブラスのサウンドにとどまらず、それにデザインを施した独自のサウンドが得られるところこそがHeaviocity音源の真骨頂。そのサウンドデザインはエフェクトやフィルターのみならず、グラニュラーシンセのように波形を生かして再統合するようなものまでも含まれ、ストリングスやボーカルの音源であったとしても、それを再構築して作られたシンセパッドやパーカッション的なサウンドまでもをカバーしています。

ほぼ全てのソフトに搭載される「○○Designer」と名付けられるモードはこのような新たなサウンドを創出するためのものになっており、まさにデザイナーという名前がふさわしく作り込めるようになっています。またループ音源としても優秀で、独自のサウンドを生かした超ハイクオリティなループのモチーフは圧巻。こちらも”Loop Designer”といったような名が付けられ、1つのモードとして使用できます。
昨今の映画音楽はハンス・ジマーに代表されるような、オーケストラとシンセの複合体でのサウンドがよく聴かれるため、その両方を併せ持ったHeaviocityの音源はそのようなサウンドを簡単に得ることができるとして、広く受け入れられています。

エフェクト、フィルター、プリセットの充実

機能の多いソフトばかりで、何から触れば良いか悩むほど多彩なパラメータがありますが、どのソフトもスナップショットと呼ばれるプリセットを膨大に収録。どのプリセットも非常に高品質なため、全てのパラメータを網羅する必要なく、まずはそれを選ぶだけでも十分にその音源の魅力を味わうことができます。
エフェクトやフィルターは十分な種類のものが含まれており、様々なパラメータをシーケンサーで演奏中に動的に制御するといった機能もほとんどのソフトで対応しています。人気プラグインエフェクトである「Punish」(後述)も音源に標準搭載されているものが多く、内部で掛けられるようになっています。

Heavyocityのおすすめ音源

Symphonic Destruction

オーケストラの生のサウンドを材料に、切り込んで編集していくことで独自のサウンドやループを生み出す、新感覚のシネマティック音源。映画音楽で耳にするシンセとオーケストラが融合した独特のサウンドが手軽に作れる、Heavyocityの真骨頂とも呼べる音源で、数種類の音色をレイヤーしたり、高度なアルペジエイターやエフェクト、フィルターなどを駆使して新しい音色を作り上げていきます。
4タイプの演奏モードがフィーチュアされており、一般的な音源と同じくキースイッチを使って奏法を切り替えるPerformers、3種類のサウンドをレイヤーし、シーケンサやアルペジエイター等を使ってサウンドを作り替えるSD Designer、トレイラーなどで耳にする地鳴りのような迫力ある音を作り出すためのBraam Designer、ループ、リズミックなフレーズに特化したBraamを作るSD Loop and Braam Desinerの4種です。

Heavyocity Symphonic Destruction – Supernice!DTM

NOVO: Modern Strings

現代風の映画やゲームの音楽、トレーラーに適したストリングスのサウンドを作り出す音源。ワーナーブラザーズスタジオでレコーディングされた38GBにも及ぶサンプルを元に、ストリングスの音色そのものを収録したTraditional、そして独特のサウンドデザインを施したEvolveの二種のインストゥルメントが備えられています。
Traditionalはヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスのサウンドにレガートやピチカートなどのアーティキュレーションを備えた王道のストリングス、それに対してEvolveは3種類のサウンドをレイヤーしパッド系サウンドを作るStrings Designer、そして複雑なリズムのモチーフを作るLoop Designerの2種が含まれ、通常のストリングスからは考えられないほど多彩なサウンドを得ることができます。
プリセットは300種以上も用意され、特にLoop Designerに付随するものは高品質で、これを選んでいくだけでも当音源の魅力が十分に味わえます。全体的に暗めなサウンドで、宇宙的な空気感までも感じさせることができるため、壮大なスケールを演出する音楽には最適なストリングス系音源です。下位グレードのNOVO Essentialもラインナップされているので、試しにそちらから導入してみるのも良いでしょう。

Heavyocity NOVO: MODERN STRINGS – Supernice!DTM

Gravity

映画音楽などでしばしば耳にする、迫力のある空間的なサウンドを構築する音源。アンビエント成分の強いシンセ系の音色が軸となっており、凄まじい迫力と広がりのある空気感を伴ったアンビエントやパッド、ヒット音やスウィープなど、多彩なサウンドを2200以上も収録。ボリュームやパン、ピッチを個別にシーケンサー的に変化させて複雑なサウンドを作るMotion機能、サンプルを複数レイヤーさせヒット音を作成するDesigner機能を搭載。エフェクトも通常使われるものは全て網羅し、Motion機能には300以上のプリセットを搭載することで、触っていくだけで様々な音色を作れるようになっています。

Heavyocity GRAVITY – Supernice!DTM

FORZO Essentials

上位グレードのFORZO: Modern Brassからライブラリを受け継いだ下位グレードモデル。上で紹介したNOVOのブラス版で、フレンチ・ホルン、トランペット、トロンボーン、チューバの4種の楽器にアーティキュレーションを備えたTraditional、そしてブラスの生音を材料としてHeavyocity独自の加工を施したサウンドを3種類レイヤーできるBrass Designer、そしてブラスのサウンドを元とした複雑なモチーフのループ素材を作り出すLoop Designerを擁した、Evolvedインストゥルメントの二種から成っています。上位のFORZA: Modern Brassに比べるとプリセットの数などが減っていますが、音質的には同等なため、こちらをまず選ぶのも良いでしょう。

Heavyocity FORZO Essentials – Supernice!DTM

MOSAIC Leads

シンセ系の音色を主体として作られたMOSAICシリーズ。シリーズ共通して、膨大なソースを3チャンネルでレイヤーできる”Mosaicエンジン”を搭載し、重厚なサウンドデザインが施せるようになっています。これはそのMOSAICの中でもシンセリード系のサウンドに特化したもので、王道のアナログシンセリードのサウンドを軸に、アタック感の強いものやノイズなどを含めた様々なソースと、それらを組み合わせた膨大なパターンのプリセットを収録しています。
プリセットはアルペジエイター、ループ的にリズミックに使うもの、またフレーズ演奏用の3つのカテゴリに分かれ、これらから選んで調整するだけでも十二分に当音源のポテンシャルを感じられます。リードという名こそ付いていますが、実際にはパッド系の浮遊感のあるものやベルのような煌びやかなものなど多様な質感のサウンドを得ることができ、シネマティック系サウンドのみならずあらゆる音楽に使える音源となっています。

Heavyocity Mosaic Leads – Supernice!DTM

ASCEND: Modern Grand

コンサートグランドSteinway Model Dを緻密にサンプリングしたアコースティックピアノ音源。ただのピアノ音源ではなく、ブラシ、ハンマー、E-Bowなどを利用して奏でた独特のサウンドを16種類収録し、さらにそれを3種類読み込んでミックスさせることができるという、まさにHeavyocityサウンドを味わえる複合的な音源になっています。ミックス具合は演奏中もリアルタイムで動かすことができ、様々な顔を見せながら移ろいゆくサウンドは当音源の真骨頂。また搭載されるコンボリューションリバーブは美しいディレイを内蔵し、Heavyocityの得意とする美しく幻想的なサウンドもお手のものです。100種類以上のSnapshotプリセットをあらかじめ搭載し、それを選ぶだけでも多彩なサウンドを楽しめるようになっています。

Heavyocity ASCEND: MODERN GRAND – Supernice!DTM

Vocalise 2

ボーカルを素材として制作されたシネマティック音源。ボーカリストの声にアンビエント成分を施したり複数のサンプルを重ねるなど、様々なプロセスのサウンドデザインを施すことで、美しいパッド音やメロディックなフレーズサンプル、リズミックなループなどに仕上げたもので、190種ものインストゥルメントが収録されています。あらゆるエフェクトを搭載し、Motionパネルではボリューム、パン、ピッチなどのパラメータをシーケンサーを使ってリアルタイムで動作させることができ、大きな動きやうねりのあるトラックを作ることもできます。声を題材にするためか静謐で厳かな雰囲気では随一で、民族音楽的なジャンルにも適しています。

Heavyocity Vocalise 2 – Supernice!DTM

MOSAIC Bass

MOSAICシリーズのベース音源。シンセ・ベースを軸にサブ・ベースや印象的なドローン、ノイズなどのソースを110種類収録したものです。ミックスされた3種類のソースは、それぞれにボリューム、パン、ピッチはもちろん、ADSRエンベロープ、EQフィルターなどを個別に設定可能。さらにシーケンサーを使った動的なパラメータの変化にも対応し、非常に多岐に渡るベースのサウンドを構築できます。197種類のプリセットが用意されており、暖かみを感じるMellowと切り裂くようなAggressiveの2種のカテゴリに分けられているため、求めるサウンドをここから選んでも良いでしょう。シネマティック音源のカテゴリには入れられていますが、実際には普通のシンセベース音源としても優秀で、活躍の場所は広く考えられるはずです。

Heavyocity Mosaic Bass – Supernice!DTM

Damage 2

Heavyocityのブランドを代表する製品にして、飛び抜けた人気を誇るパーカッション音源。一般的なドラムキットからエスニックなもの、はてはゴミ箱やボールに至るまで、60GB、40000以上にも上る打楽器のソースが収録されており、Heavyocity独自のサウンドデザインが施された、凄まじい存在感を持つパーカッションアンサンブルを構築できます。
深いリバーブとレンジの広いサウンドはシネマティックパーカッションの根幹を成すに十分な迫力があり、他製品と同じく、Ensemble Designer、Loop Designerにより、独自のパーカッションアンサンブルやループを作成可能。また16ボイスのドラムキットをオリジナルに構築できるKit Designerも装備し、通常のドラム音源のように扱うことも可能です。各種エフェクトはもちろん、5種類のマイクポジションのミックスによりサウンドの質感の調整もでき、200以上のSnapshotプリセットによってその魅力は簡単に味わうことができます。劇伴制作にはもちろん、その強烈な存在感でメタル系やEDMなどの音楽などに合わせることもでき、幅広い使い方が考えられる音源です。

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DTM君「バックトラックはDAMAGE 2で作っています。映画のような重厚なサウンドがプリセットに入っていて、すぐに使い始めることができます。そのサウンドは説明にもある通り凄まじい存在感がクセになりますね。」

Heavyocity DAMAGE 2 – Supernice!DTM

Punish

Heavyocity社のほとんどの音源に搭載されるPunishエフェクトを一つのプラグインとして独立させたもので、Heavyocityブランド唯一のエフェクト・プラグインです。アナログ機材をモデリングしたコンプレッサー、サチュレーター、トランジェント・シェイバー、EQなどを一台に収め、ダイナミクスの処理をこれだけで完結できるようにしています。
中央に備えられたPunishノブは全エフェクトの複数のパラメータを一括でアサインしてあり、これを動かすだけでサウンドを激変させていくことが可能。アナログライクな歪み感を伴うことで、心地よくかつ迫力のあるサウンドを簡単に得ることができ、一つずつを自由に設定する細やかな使い方はもちろん、楽器毎に用意された90のプリセットから一つ選び、あとはPunishノブを上下するだけという手軽な使い方でも十分な効果を感じられます。ドラム、ベース、ボーカルなど個々のトラックには当然として、バストラックやマスタリングにも使える汎用性の高いプラグインです。

Heavyocity PUNISH – Supernice!DTM


とにかく壮大な音質のものが多く、その割にアクが強すぎない絶妙なさじ加減が見事。オリジナリティの溢れるサウンドデザインで作られたインストゥルメントもカッコいいものが並ぶため、鍵盤で音を鳴らすだけでも楽しめる音源ばかりです。映画音楽、ゲーム音楽などの制作に携わる人ならば、何本持っていてもその価値が感じられるはずです。

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