楽曲制作の必須エフェクター!おすすめのディレイプラグイン[記事公開日]2021年8月14日
[最終更新日]2022年03月31日

ディレイプラグイン

俗にやまびこと称されるディレイエフェクト。残響を与えるリバーブと似た効果ですが、こちらは返ってくる音がしっかり聞こえるのが特徴。非常に多くの用途で使われており、楽曲制作にはなくてはならないもので、プラグインの数も多く出回っています。代表的な使い方と、様々な製品を紹介しましょう。

ディレイの種類

アナログ・ディレイ

BBD(バケツリレー素子)といわれるものを利用して、アナログで音の反復を作り出す方式のもの。反復する度に音色が劣化し良い具合に目立たなくなっていくため、音楽的なエフェクトとされています。フィードバック値を大きくすると発振を起こし、それが音楽的に使用されることもあります。アナログなため本来はハードウェアでしかあり得ないものの、現在のエフェクトプラグインではそれをデジタルでシミュレートしたものも含めてアナログ・ディレイと呼んでいます。

デジタル・ディレイ

デジタル的に音をそのままコピーして反復させるもの。音の劣化がなくそのままの音が返ってくるため、ダブリングなどには適していますが、同じ音色がそのまま返ると使いにくいことが多く、通常反復音にフィルターを掛けて高域や低域をそぎ落とすということが行われます。フィルターはディレイプラグインそのものに付いていますが、場合によっては前後にEQを挟むということも行われます。音色は非常にクリアーで、デジタル系はその濁りの無さが好まれて使われます。

テープエコー

ディレイの始祖とも言うべき存在で、ループ状のテープから録音再生を繰り返す事で反復音を得るという構造のものです。反復音には単なる音質劣化に加え、テープが走行するために混入するノイズ、テープ自体の不安定さからくるピッチの揺らぎなどが加わり、非常に独特の効果をもたらします。後述するダブミックスを行うエンジニアから、ディレイにうるさいロックギタリストにまで、もっとも原始的な存在でありながらも多くのミュージシャンから愛されており、シミュレートされたプラグインの数もその分膨大です。

ディレイプラグインの使い方

ギター

ギターを弾く人にとってディレイはもっとも馴染み深いエフェクトの一つでしょう。リードギターにしっかりとしたディレイを掛けて奥行きを表現する、あるいはやや短めのディレイを掛け存在感を増す、といったような使い方が代表的な使用法となります。その他にも極々短いタイムで掛けるスラップバックディレイ、8分音符のフレーズを16分音符のシーケンスのように聞こえさせる付点8分ディレイなど、特殊な使い方もしばしば行われます。また、クリーントーンでのカッティングなどに猛烈な劣化具合でアナログディレイを掛けるというような手法もダブミックス(後述)では行われます。ギターはディレイの乗りがあまり良くなく、かなり深めに掛けても目立ちにくいため、センドで掛けるほか、場合によってはインサートで直接掛けてしまうこともあります。

ボーカル

ボーカルに使う場合、リバーブの補助のような位置で使われることが多く、主にテンポにシンクロさせたタイムを使用し、薄く掛けることでバックとの馴染みを良くするといった用途がほとんどです。バラードなどでは空間の大きさを表現するために深めに掛けることもありますが、ギターなどと違い、ボーカルは非常にディレイの乗りが良く、かけ過ぎると悪目立ちしやすい傾向にあるため、あくまでも薄めにとどめておくのが基本です。ただし、フレーズの最後の歌詞だけを延々繰り返させるなど、ディレイそのものの効果を表現として利用することもあり、そのような使用法では大胆に掛けることになります。

ドラム

ドラムにも場合によってディレイが掛けられる場合があります。さすがにバスドラムに掛けることはほとんどありませんが、スネアドラムに薄く掛けることでダブルトラック的なサウンドを作り出したり、オーバーヘッドなど、シンバル類に掛けることでリバーブとは違った残響効果を狙うこともできるでしょう。またテンポに合わせたディレイを上手く使えば、非常に面白いリズムトラックをディレイだけで作り出すことも可能で、例えばギターにおける付点8分ディレイはドラムにも応用可能です。またフィードバック量をオートメーションで操作することで、有機的にリズムを変えていくなど、現代のDAWを使っての制作環境のなか、そのアイデアは無限とも言えるでしょう。

ダブのミックステクニックについて

ダブ(Dub)とはダビング(Dubbing)を略したもので、既存の楽曲にディレイやピッチシフターなどを掛けることで、音響的に独創的なサウンドを狙って行われるミックスのテクニック。元々は70年代ごろからレゲエのエンジニアによって使われた手法であり、既存の楽曲から一部のパートを敢えて抜いたり、過激なエフェクトなどを掛けることで、原曲の別バージョンとして作られてきたのが始まりです。その後はエレクトロニカなどの電子音楽系のジャンルに飛び火し、現在では一つのミックステクニックとして定着しています。

ディレイはダブミックスの際にもっともよく使われるエフェクトの一つで、何度もディレイ音をフィードバックさせてその際に起こる劣化を利用したり、反復ごとに音程を変えていく、あるいは反復を逆再生するリバースディレイなど、様々な手法が利用されます。テープエコー系の劣化の激しいディレイはこの用途に向いているため特によく利用され、フィードバックごとにピッチシフトを掛ける機能が付くプラグインなどもあります。このダブミックスで使われる対象の楽器としては、ドラムがもっとも多く、他にもギターや場合によってはボーカルに使われることもあります。
独特のトリップ感が存在し魅力的なサウンドではありますが、演奏のダイナミクスや微細な部分に拘らずに、音響的な気持ちよさやトリップ感などを最優先に作られるミックスであるためか、演奏を本分とするミュージシャンではなく、エンジニアやDJなどによって発展させられてきました。

おすすめの無料ディレイプラグイン

ValhallaDSP FreqEcho、E-phonic Tape Delay、Smartelectronix AnalogDelay

いずれも無料で手に入るアナログ系のディレイでは定番となるもの。テープエコーやアナログディレイに特徴的に見られる、ディレイタイムの増減によるピッチの変調などが再現されており、通常のアナログ・ディレイとしての使い方はもちろん、オートメーションなどをうまく利用することで、ダブミックスに見られるような変調を含む使い方まで様々に利用可能です。特にFreqEchoはFreqという名の通り、フィードバックと同時にピッチをずらしていくことができ、サイケデリックなサウンドを得るに最適なモデルです。

ValhallaDSP FreqEcho
E-phonic Tape Delay
Smartelectronix AnalogDelay

おすすめの有償ディレイプラグイン

Waves H-Delay

アナログとデジタルのハイブリッドを信条とするHシリーズのディレイ。Lo-Fiボタンやダイヤルによって、サウンドのアナログ感を調整でき、プリセットも多く、非常に使いやすいものになっています。ピッチシフトなど特殊な機能はありませんが、ノーマルなディレイとして、一つあると重宝するでしょう。

収録バンドル製品:
WAVES Gold
WAVES Diamond
WAVES Platinum
WAVES HORIZON
WAVES Mercury – Supernice!DTM機材

Native Instruments Replika

あらゆるクリエイターの定番バンドルKompleteに含まれる定番のディレイ。デジタルディレイからリバーブ的なものまで3種のモードを持ち、フィルターやフェイザーなどを併用することで、多彩なサウンド表現を付けられます。

収録バンドル製品:
Native Instruments KOMPLETE 13 – Supernice!DTM機材

IK Multimedia T-RACKS SPACE DELAY

ヴィンテージテープエコーの銘機、RolandのRE-201 Space Echoを忠実にシミュレートしたディレイプラグイン。3基の再生ヘッド、可変スピードモーター、スプリングリバーブを内蔵し、12種類のサウンドを持つ実機を正確に再現。その上でパンニングの柔軟さ、ハイパス、ローパスフィルターの装備、他トラックの音量に対して音量変化を得ることのできるダッキング機能など、現代の音楽制作において必要となる新たな機能を追加しています。オリジナルのマシンの挙動を正確にモデリングしたこのプラグインは、ヴィンテージ系ディレイの定番として、あらゆるジャンルに使うことができるはずです。

IK Multimedia T-RACKS SPACE DELAY – Supernice!DTM機材

Arturia 3 Delays “TAPE-201 / Delay MEMORY-BRIGADE / Delay ETERNITY”

多くのハードウェアシンセサイザーを開発するArturiaのディレイ3種。70年代に登場したテープエコーの銘機Roland RE-201、多くのギタリストに愛されたアナログディレイElectro-Harmonix Memory Man、そしてオリジナルの次世代デジタルディレイEternityの3本が含まれます。モデリングとして前者二つはいずれも忠実に実機を再現しており、Eternityはただのデジタルディレイにとどまらず、フィルターやピッチシフターを駆使することで、シンセサイザーのように音作りまでもを可能にする次世代のディレイ。いずれも単品購入もできますが、「3 Delays」というパッケージとしてセット販売もされています。

AUDIOTHING WIRES

70年代にソヴィエトで使われたワイヤーレコーダーを再現したもの。実機はテープではなく磁気ワイヤーが使われたレコーダーで、録音再生という本来の使用法からかけ離れた場所で前衛的なミュージシャンによって使用されてきた歴史をもっています。ローファイとエコーを同時に加え、強烈な音質劣化によるサウンドの揺れが非常に独特であり、テープエコーとはまた異なるサウンドを提供してくれます。使いどころは難しいものの、うまくはまると大変魅力的なサウンドになり得るはずです。

AUDIOTHING WIRES – Supernice!DTM機材

AUDIOTHING OUTER SPACE

70年代初期の有名なテープエコーをシミュレートしたディレイ。テープのモードにそれぞれOriginal、Modern、Oldの3種を用意することで、異なる音質のディレイを演出可能。再生ヘッドを3つ装備しそれぞれにボリュームとパンを設定可能で、フィルターやダッキングのコントロールなどもあり、テープエコーとしてのサウンド調整に十分な幅を確保しています。テープの回転数に応じたピッチの変化を再現するなど、緻密なシミュレートも行われており、ダブミックスやレゲエなどにはもちろん、エレキギターなどディレイを必要とする様々な楽器に適したサウンドを得ることができるでしょう。

AUDIOTHING OUTER SPACE – Supernice!DTM機材

Soundtoys EchoBoy

業務用レベルのサウンドを謳うSoundtoysのディレイ。スタジオクオリティのデジタル・ディレイから、テープエコー、ローファイの掛かったディレイなど、シンプルながら多用途のディレイを収録しています。このディレイの個性は装備されたアドバンス・アナログ・モードの音楽的な響きにあります。楽曲のテンポにシンクロさせた上で、走り気味、タメ気味などのリズムの揺れを設定したり、拍ごとにディレイ音のアクセントを設定するなど、有機的にグルーブ感を演出できるディレイはこの製品をおいて他にありません。EQ、モジュレーション、サチュレーターなど、ディレイの音質を調整する部分も万全で、プリセットも膨大な数を確保。他のどんなディレイとも一線を画す、まさに隙の無い”音楽的”なディレイとなっています。

Soundtoys Crystallizer

80年代ごろによく使われ、多くのヒット曲で耳にするEventide社のH3000ディレイマシンのプリセット「Crystal Echoes」を模したプラグインがこの製品。本質的にはリバースディレイの一種であるこのディレイは、デチューン・エコーやピッチシフトを併用したりすることで、グラニュラーシンセサイザーのような、キラキラした揺らめく独特のサウンドまでを得ることができるという独創的なものです。任意の幅でサウンドをスライスし、それをリバースさせたり、ピッチシフトさせたりすることで、トリップしたようなサイケなサウンドから、パッドのような浮遊感のあるサウンドまで様々な効果を表現します。独特のサウンドを得ることができるシンセのようなエフェクトですが、通常のディレイとしてももちろん大変優秀で、プリセットにはドラム専用フォルダまであるなど、多彩な楽器に使用可能なのがわかります。

D16 Group Repeater

D16 GroupとSlate Digitalの共同設計となるディレイ。通常のデジタルディレイを始めとし、テープエコーからオイル缶を使ったもの、Universal Audio発のキューブを使ったディレイまで、過去70年の間に開発された23種のディレイを1本に収録しています。ステレオのチャンネルごとにドライ/ウェットの設定はもちろん、独立したコントロール、フィルターなどを持ち、ヒップホップやレゲエなどへ特に高い適正を持ちながらも、収録されたディレイの種類は屈指の数を誇り、あらゆるジャンルに使える多機能さをも有しています。

SLATE DIGITAL Repeater Delay – Supernice!DTM機材

FabFilter Timeless 3

昨今、定番の地位を確立しているFabFilter製のテープエコー系のディレイ。FabFilterの他製品同様、視認性が良く、高い操作性のインターフェースを持ちます。シンセサイザーなみのモジュレーションやフィルターを搭載し、ダッキング、ワウ、フラッター、ディフュージョンのコントロールなど、サウンドを変質させるためのあらゆる機能を搭載し、単なるディレイを超えたサウンドデザインツールとして機能させることが可能。しかし、そのサウンドの本質はヴィンテージなサチュレーションを持ったアナログエコーであり、音楽的にも大変好ましく優れたサウンドであるところはさすがの一言。ノーマルなディレイとしてもダブミックスのためのツールとしても、リズミックな飛び道具としても、あらゆる用途で活躍することは間違いありません。

FabFilter Timeless 3 – Supernice!DTM機材


残響を与えるエフェクトとしてはリバーブと並んでよく使われるエフェクトであるため、有料の高品質なものを得る価値が高いのがディレイです。DAW付属のものに物足りなくなったら、導入を考えてみるのも良いのではないでしょうか。その際には自分の得意なジャンルなど、制作スタイルとの兼ね合いをよく考えて選んでみましょう。