音を汚して迫力を加える?サチュレーター・プラグイン特集![記事公開日]2021年9月2日
[最終更新日]2022年03月31日

サチュレーター・プラグイン

音源にアナログ的な歪みを与えるサチュレーター。よく耳にするものですが、具体的にどのようなものであり、どう使うのか。またどのような製品があるのか、詳しく見ていくことにしましょう。

サチュレーターとは

アナログのコンソール回路、あるいはかつてレコーダーの主流であったテープデッキなどは、やや過大な入力を通すことで、レベルオーバーが生み出す緩やかな歪みが付加されます。厳密な意味で音の良化とは逆といえる変化ですが、そのような歪みが生み出す音の質感は一つの効果として肯定的に捉えられており、サチュレーション(:飽和)という音楽用語として認知されています。

サチュレーションは単なる質感の変化以外に、緩やかな歪みを与えることで倍音が増し、音色のヌケを良くしたり迫力を与えたりするなどの効果も期待できますが、デジタルでの制作が主流である現在では意図的に作り出さなければ得られない効果でもあります。ヴィンテージ系をシミュレートしたコンプレッサーをサチュレーションを得るためにあえて使用する手法もよく見られますが、サチュレーションを与えることに特化したプラグインとして、サチュレーターというカテゴリが存在しており、ここで取り上げているのはそのように分類されているものです。

テープデッキ系

テープデッキ系サーチュレーター Softube Tape

テープデッキを通した時の飽和感を再現するもので、モデルによってはテープの走行速度やフラッター(磁気テープ特有の揺れ)、ノイズなどを付加することで、よりヴィンテージ機器らしい振る舞いを再現できるものもあります。マスタートラックでサウンド調整の最終段階として使われることが多いですが、個々のトラックに使っても効果抜群で、サチュレーターというカテゴリの代表的存在と言えるでしょう。

チャンネルストリップ系

大型コンソールの一つのチャンネル部を取り出したもの。サチュレーションという目的以外にやコンプレッサーが付随している場合もあり、サウンドの質感を一つでコントロールできるところが魅力。モデリング元となる機種によって、真空管系、ソリッドステート系など、回路構成にも違いがあり、それぞれ別のサウンドキャラクターを持っています。ロンドンのアビーロードスタジオで使われるコンソールなどは特にモデリングされたプラグインが多く、製品名にその名が冠されていることも。

オーバードライブ・ディストーション系

単なるエフェクトとして歪みを与えるもの。キンキンとした不快な高音を制御するため、フィルターが併用できることが多く、製品によってはサチュレーションとしても使える上、エレキギターの歪みに匹敵するほどの過激なサウンドを得られるものもあります。

サチュレーターの使い方

音ヌケを良くする

サチュレーターは歪みを加えることによる倍音の増加を狙って使われることが最も多く、その場合は個々のトラックに必要に応じて掛けられます。倍音が増すと音のヌケが良くなるため、特にバックトラックから浮き立たせたいボーカルに使用されることが少なくなく、その場合、聴くだけでは判別が難しい程度の軽い歪みを付加して、倍音を増すことでヌケを良くします。

またそれ以外にも、ドラムのオーバーヘッドやハイハットなど金物系に使うことでシンバルのシャリッとした成分を強くしたり、ベースに使うことで音の輪郭を際立たせたりするなど、多様な使用法が存在します。

迫力を出す

サチュレーションの持つ飽和感をそのまま利用する場合がこれに当たるでしょう。典型的な利用法としては、ドラムバスにまるごと掛けることでドラムの全体像にぐっと迫力が増し、前にせり出してくるような効果が狙えます。マスタートラックにインサートする、マスタリングに使うサチュレーターにはこの効果も意図されています。

暖かみを加える

アナログのサウンドは暖かいとよく言われる通り、その真骨頂はデジタルとはまた違う質感を持った、言うなれば不器用なサウンド。この質感の変化は、個々のトラックからマスタートラックまで、あらゆるシチュエーションで求められることがあります。テープデッキ系やヴィンテージ・チャンネルストリップ系プラグインはこのような目的で使われることが多々あります。

全体を馴染ませる

マスタートラックに使う場合においては、前述した通り、迫力を得るとともに、この目的を兼ねていることがほとんど。様々なトラックが擬似的に同じ機器を通ることで、最終的な質感をコントロールします。テープ系のサチュレーターやレコードカッティング系のシミュレーターが使われることが多く、特にマスタートラック用テープデッキがモデリングされた製品はこの目的のためにあると言って過言ではないでしょう。

おすすめのサチュレータープラグイン

無料 Softube Saturation Knob

ギターアンプやテープエコーなど、様々なソフトウェアプラグインを提供する、スウェーデンのSoftube社が送る無償のサチュレーター。製品名通り、Saturationというノブ一つと、歪みの掛かる帯域を制御するスイッチが一つ付いただけのシンプルな設計のもので、ベースの輪郭を際立たせたり、ボーカルに歪みを加えてヌケを良くする、ドラムに大胆に掛けるなど、多くの手法に利用可能です。

Softube Saturation Knob:ダウンロード

Softube Tape Machine Emulation

アナログテープを通すことで得られる、曲全体を通したスムージング効果を目的とするテープマシーンエミュレーター。滑らかで正確なスイス製のハイエンド・オープンリール、低域をさらに強調するトランス・ベース・マシン、ヴィンテージ風味の強いイギリス製のテープマシン、それぞれ3種をモデリング。3種からタイプを選び、Amountノブを上げるだけの簡単操作を基本としつつも、テープ速度の設定や、さらなる細かな設定も可能なRemote Controlパネルなど、奥深いところまでのエディットにも対応。トッププロエンジニアが監修したプリセットも充実し、マスターバスのみならず、個々のトラックに使うこともできます。

https://www.mi7.co.jp/products/softube/tape/

FabFilter Saturn 2

FabFilter Saturn 2

ソフトウェアプラグインの王者、FabFilterが送り出すマルチバンド・サチュレーター。サチュレーターという名に留まらないほどの多様な歪みを得ることができ、軽く倍音を付加するだけの歪みから、ドラムループを汚して迫力を得たり、ワイルドなギターアンプのレベルの歪みまで、非常に幅の広いドライブ量を持っています。歪みの質感はStyleとしてまとめられており、定番の真空管やテープをはじめ、ギターアンプをモデルとした”Amp”、サウンドを激変させる”FX”など、通常のサチュレーターではあまり見かけないものも含め、全28種類に及びます。マルチバンドというだけあり、周波数ごとに6バンドまで分割して掛け方を調整でき、高品質なモジュレーションをも搭載。サチュレーターという枠を超え、マルチな歪み系エフェクトというのが相応しい存在でしょう。

FabFilter Saturn 2 – Supernice!DTM機材

Native Instruments DRIVER

Native Instruments DRIVER

EDMなどで定番として長く君臨したMassiveシンセの開発者が作り出したエフェクトプラグイン。ディストーションとフィルターをセットにしたものとなっています。フィルターにはモジュレーションも搭載しており、インターフェースもシンセらしいものとなっていますが、そのサウンドの幅は意外にも広く、ボーカルに倍音を加えるだけのライトな使い方から、破壊的なドラムループを作るに至るまで、これ一つで様々なシチュエーションに対応。KOMPLETEバンドルに付属するため、使用者は多いでしょう。

DTM君

DTM君「よく使うプラグインです♫アナログ楽器はプリアンプ系のプラグインをかけ録りでレコーディングすることが多いんですが、ミックスダウン時にもうちょっとパンチが欲しいなと思った時に軽くかけるなど、重宝します。強くかけて歪ませるのも面白いですよね。」

DRIVERが含まれるバンドル製品:
Native Instruments KOMPLETE 13 – Supernice!DTM機材

XLN Audio RC-20 Retro Color

Addictive Drumsなどのソフトウェア音源で名高いXLN Audioが送る、ヴィンテージ風味を追加するためのマルチエフェクト。歪みを与えるサチュレーター以外にも、レコードやテープから発せられるノイズの付加、テープマシンの揺らぎを加えるフラッターや、ヴィンテージサンプラーの持つローファイな特徴を与えるなど、様々に”レトロ”な色を加えることができます。1本でヴィンテージ機器の色彩を与えるためのほぼ全てを賄うことができる上、インターフェースも一画面で整えられており、楽器ごとあるいはバストラック用のプリセットも非常に充実し、使いやすさにもよく考えられています。

XLN Audio RC-20 Retro Color – Supernice!DTM機材

Brainworx bx_saturator V2

マスタリングや2Mix作成時において、M/S処理を前提としたサチュレーターを掛けられるプラグイン。Mid、Side成分ともに、帯域ごとに区切った2バンドごとに処理を行うことができるマルチバンド・サチュレーターとしての側面を持ち、選択できる二種類のドライブモードでは、緩やかな歪みからゴリゴリとした急激な歪みまでコントロールできます。Brainworxの他製品同様、指定した周波数以下をモノラルに変換するモノメーカーも装備し、楽曲の最終調整の中で、トータルなエフェクトとして活躍できるでしょう。

https://www.uaudio.jp/uad-plugins/mastering/bx-saturator-v2.html

Slate Digital Virtual Tape Machines

ハイクオリティなプラグインで知られる、Slate Digitalのヴァーチャルテープマシンプラグイン。ピンクフロイドが「狂気」をレコーディングしたとされるStuder社のA80、そしてA827の二機種を緻密にモデリング。A80はマスタリング用として最終段にインサート、A827は元々16トラックのレコーダーであり、各トラックごとにインサートするようになっています。走行速度やテープの種類から、磁気テープ特有のノイズや、揺れを表すフラッターなども調整可能で、多様なエディットに対応しています。数あるテープサチュレーター系のプラグインでも、その質感はトップクラスです。

Slate Digital VTM – Supernice!DTM機材

SoundToys Decapitator

往年の銘機とされるコンソールやテープレコーダーなどのシミュレートを5機種分内包したアナログサチュレーター用プラグイン。使い方は非常に簡便で、5種のスタイルを選び、トーンやハイカット、ローカットなどでEQを調整し、MixやOutputなどで出力部をコントロールするだけ。内蔵された5種のスタイルはそれぞれ、50年代のテープマシンAmpex 350、アビーロードスタジオで使われたEMI TGシリーズのチャンネルストリップ、伝説的なコンソールNeve 1057、Thermionic Culture社の真空管ディストーションユニット2機種。これら5機種はテープマシンの緩やかな歪みから過激なディストーションまでをカバーしており、サウンドの軽い味付けから、劇的な処理までを1本で実現できます。

SoundToys Decapitator

Waves Kramer Master Tape Abbey Road Saturator OneKnob Driver

エフェクトプラグインの定番Wavesが送り出すサチュレータープラグイン。世界的なエンジニア、エディ・クレイマー氏の監修によりAmpex 350を元に開発されたKramer Master Tapeはマスタートラック用の機能を持つ定番テープサチュレーターで、暖かく豊かなサウンドを得るのに最適。アビーロードスタジオのTG12345コンソールを元に作られたAbbey Road Saturatorは、真空管、ソリッドステートから、最適なサチュレーションを掛けることができ、細やかなEQを装備するところも魅力。OneKnob Driverは暖かみのあるオーバードライブから激しいディストーションまでを文字通りノブ一つで調整して使うもので、ギラギラし過ぎないようフィルタリングが施されており、ちょっとしたトラックの隠し味にも最適です。

収録バンドル製品:
WAVES HORIZON
WAVES Mercury – Supernice!DTM機材

iZotope NEUTRON 3

この中でも唯一サチュレーターというカテゴリに収まらないNeutronは、iZotopeでもっとも人気のあるプラグインの一つであり、EQやコンプレッサーなどを始めとする多彩なエフェクトを1本で賄える優れたマルチエフェクトです。内蔵されたExiciterというエフェクトが、3バンドを別々に制御できるマルチバンド・サチュレーターとして機能し、アナログの質感をシミュレートしたTube、Warm、Tape、Retroという4モードのブレンドによるサチュレーション効果を付加することができます。ちなみに、EQやコンプレッサーでもヴィンテージ系モデルを選択することで近い効果を得ることができ、洗練されたインターフェースとは裏腹なアナログの質感をも得意とします。

iZotope NEUTRON 3 – Supernice!DTM機材


ミックスの主役とまでは言えない存在ではあるものの、あると非常に重宝するのがサチュレーター。コンプレッサーなど、他のプラグインに付属している場合もありますが、専用のものはやはりその質感や、元のアナログ機器の良さを繊細に再現できているという点において、それなりの価値を持っています。自分のミックスが物足りないと感じる方は一度手を伸ばしてみてはいかがでしょうか。